安達正興のハード@コラム
Masaoki Adachi/安達正興


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奈良零れ百話・石碑の苔
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( 2015年 12月 21日 月曜日)


●苔に埋もれた石碑の刻文
岩や、石碑に付着して育つ、苔類は種類が多い。しぜんの景観にある苔なら岩につこうが樹木につこうが、採集しても問題ない。墓石では日当たりの良いところにゼニゴケがはびこる。見ためが悪いので、頼めば石屋さんが駆除して洗い流してくれる。しかし、墓石でも石碑でもあまり陽のあたらない木々や森の中にあるものには緑の苔がつき、それなりの歴史と風情がるため、勝手に書き落とすわけには行かない。

そうすると、碑文が苔で埋まったところは解読できない。実際、夥しい石造物を残した吉村長慶の石碑を調べ歩いて、碑文を写しとる時、苔に悩まされた。神社仏閣の境内にある石碑などは、撮影許可を得なければならないところが増えた。個人情報漏洩なんて屁理屈で拒否する寺もあった。

●苔は落ちてもすぐつくヨ
ましてや苔に手をつけるのは、どこでも断られた。で、ダマッテ潜り込んで、苔で見えない文字はあたりに人影がないのを確かめてから、歯ブラシで少し掃いて(剥がして)懐中電灯で斜めに照らすと、判読できる。小心者の拙子が、よくやったものだと振り返って感慨深い。

ところがである、奈良学の先駆者・故高田十郎氏が春日の灯篭、約一千の釣り灯籠と千八百の石灯篭を銘文も含めて4年がかりで調査された時、苔まみれの石灯の刻文をどうやって読み解いたのか不思議である。

だが、不思議でもなんでもない、時の宮司は二条宮司、のちに権宮司になる森口禰宜らの了解を得て始めた調査である。苔の問題は。「いいヨ、落ちてもすぐ付くヨ」と森口禰宜は意に介さなかったという。斯様な決断は下っぱでは下せない。

拙子などは、拝観料を買うところや、よくて社務所や寺務所の係員である。こんなところで苔落としを訊ねていてはラチがあかない。本職とは別に、趣味でやる私事ではあるが、肩書きのないことで悔しい目をしました。







Pnorama Box制作委員会


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