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奈良零れ百話・東大寺の鐘
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( 2015年 8月 25日 火曜日 )
●バーナード・ショウの魂をゆすった鐘の音『こいつは素敵だ、世界中でこんな審美的な音を聴いたことがない』。こう言ったのはウイットと皮肉の文豪・バーナード・ショウその人である……という耳学問をちょいと調べてみた。ショウは77歳のときに世界一周観光の豪華客船“RMS Empress of Britain”に乗船して、途次東京に帰港、京都、京都、大阪を観光して昭和8年(1933)3月4日に奈良へきた。この豪華蒸気船は3本の煙突,蒸気タービンを動力に当時大きさ、豪華さ、乗船料、すべて世界最大。といっても客数700人ですから蒸気船後の今のクルーザーと比較しちゃいけません。 ところでこの豪華船も戦時中は兵や軍需物資を運ぶ役目に就航、ドイツ爆撃機に攻撃され、出火が酷かったが沈没しなかった。それをこんどはドイツの潜水艦が追っかけ、魚雷2発を命中させた。哀れ女王陛下の船は撃沈された。戦争は現象に限定すればロクなことがない。 ●『東大寺の鐘の音はビッグ・ベンにまさる』ショウはお世辞を決して言わないひとだから日本滞在中、警句を連発しても日本を誉めた事は一度もない。ところが東大寺の鐘の音にいたく感動されたもようが、昭和36年の『奈良観光』に朝日の女性記者が書いていた。ショウの発言を一部英文にして引用すると: 《大仏見学のため桜には早いが奈良公園を歩いていると、神代杉の樹幹を流れてボーンと響いた。ショウは一瞬足をとめたが、案内人の歩調に合わしてついていった。大仏を見ての帰り道、またもやボーン。『いまのは何だ』ショウは立ち留まって余韻を聞いている。 『そこへ案内せよ』というや案内人の指差す方角へ77歳の老体が嬉々としてのぼった。『Well well, this is it, the sound of poet』とでも呟いたのでしょうか、冥加料(鐘撞き代)は5銭、『I pay as much as I have here now, so do someone hit thr bell』とでも言ったのでしょうか、誰かが思いきり撞くと『それじゃ余韻がなくて駄目だ』とこんどは自分で軽く鐘木を撞く。そして『ホホウこれは素敵、イギリスのビッグ・ベンなど遠く及ばない、とこの時ばかりは素直に感銘していたようだった》 ●天平の鐘と時報チャイムでは? 東大寺の梵鐘は大仏完成より早く751年出来ていた。鐘楼は鎌倉期の造りだがこの大鐘だけは二度の東大寺炎上にも融けず、文豪.ショウが感じ入った昭和8年、すでに1242年の歴史を持つのである。ま、地震や龍頭(りゅうず、吊り手の部分)が切れて梵鐘が落下、そのたび罅程度の被害が修繕されているといえ、ビッグ・ベンは1850年代の作で時計塔に取り付けられる前から、不良品が造り替えされたり、実用になってからも故障続きであった。時報のチャイムはこのメロディが世界に普及、時報チャイムの定番であるから、素晴らしいものにちがいないのだがしかし、「寺の銅製梵鐘と比較するな」と言いたくもなります。 ●余談奈良話から逸れる余談です。教会の鐘は呼び鈴や家畜のベルと異なり鐘を振り子のように揺すって音を出す。ビッグベンの鐘が大小幾つあるかしらないが、欧州の教会では「時計演奏」というか、大小さまざまな音階を持つ吊り鐘を操って複雑な鐘音だけよる音楽を聞かせる催しがある。数人が手分けして鐘の紐を引っぱり鐘を揺すって、ときにはブラ下がって演奏するのだが、いまではパイプオルガンと連動してオルガニストが演奏する事が出来る。当地のヨハネス教会にも42コの釣り鐘(オランダ製)が昨年設置され、これだけ音階があれば大抵の曲は演奏可能である。(了) |
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