安達正興のハード@コラム
Masaoki Adachi/安達正興


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奈良零れ百話・灯籠
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( 2015年 8月 21日 金曜日


●本堂、本殿前の灯籠
奈良の古いお寺ゆくと、最も大きくて立派なものが、本堂の正面に立っている。法隆寺金堂や講堂の前、東大寺大仏殿には天女を併しボリした銅製の灯籠がある。唐招提寺金堂前、薬師寺搭院道の前や、秋篠寺、法華寺の本堂然り。

なんでまた、真ん前のど真ん中なのか。これがあるため修復作業に大きな機械や作業板場の櫓をくむとき邪魔になる。神社にも同じような灯籠が本殿の前にあったりするが、なければならないものでもなし。

これら中心になる大灯籠は明かりの為と、伽藍の偉容と本殿の有難い姿には良い灯籠があってしかるべきとはおもう。本来は火を灯して仏を供養する一種の意仏具で、日本に入るや神仏混合で神社にも浸透した。いわばお燈明の本堂仕様とおもえばよい。昔は明かりのためもあっただろうが、いまは夜間にライトアップするほど明るい。奈良には実用にならない古物がやまほどあり、それが遺産でもある。

●灯籠の名品/東大寺
奈良の灯籠の逸品をあげるなら、一に大仏縁前の八画灯籠、その火袋扉に透かし彫りされた笛を吹く「音声菩薩(おんじょうぼさつ)である。小さい時から拓本の印刷で見慣れているが、何度見てもよいものですね。竿に御経が彫り込んである手の込んだデザインです。大仏の御身はもうやたらに大きいだけでデザイン的な飾りは蓮座の毛彫りぐらいなんですが、灯籠の一品になると天平工芸の粋が見事にあらわれます。

●石灯の名品/春日社
二つ目は春日若宮の「柚木石灯」。柚の木の下にあったのでその名で知られた鎌倉このせきとうだが、痛んだのでいまは宝物殿にあり、柚の木も枯れて代りにみかんのような大きい実のなる下にレプリカが立っている。石屋さんのこのカタログには色々な型のサンプル写真があり、形よい灯籠は「春日型」と呼ぶらしい。若宮と火音宮の間にぎっしり並ぶチェスのコマのように同型同大で竝部石灯もこの型でお型(おあいがた)と呼ばれている。本宮と若宮の間にあるからそう呼ぶのだがあまり世間には知られていない。

そのほか、藤原時代という興福寺南円堂まえの銅灯籠もでかい。八画の石囲いで、触れないようにしているのは、目障りとおもえども、国宝ですからね。灯籠名は最澄や空海に従って唐に学んだ橘逸勢(たちばなのはやなり)の書と言われているのですが・・

●万灯籠と高田十郎
春日も東大寺も万灯籠といわれ、それぞれ年に2度ばかり一斉に点灯される。拙子少年の頃の真冬の春日万灯籠は、人影ちょうどよい数の人々のシルエットで幻想的な気分でした。

この春日灯籠を位置関係から、刻銘文字まで全部調べて図に書いたのが、奈良学の創始者・高田十郎である。図書館で高田十郎の雑記帳(ペン、鉛筆書きを写真に起して合冊とした分厚い数冊を、奈良情報館でゼーンブ目を通したことがある。

以前、志奈子橋についてたった3行のメモを探して、数時間目を通したのだが、そのなかに春日神社灯籠の分布調査記録があった。驚いたのなんの、高田十郎氏が独りでコツコツやった。こう言う作業はいまなら学生に手分けしてやらせるのであるが、調べてどうなるものでなし・・今では消滅した狂気じみた博識碩学の学者のひとりですね。(了)






Pnorama Box制作委員会


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