安達正興のハード@コラム
Masaoki Adachi/安達正興


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奈良零れ百話・蘭奢待
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( 2015年 7月 25日 土曜日


●蘭草と麝香の香り
正倉院には煌びやかに、螺鈿細工琵琶や、凝った引田足付きの碁盤など、見るなり「ギャー」とその見事さに驚嘆の声が出そうになるのだが、それら約2万点の御物のなかに、見た目にはとても宝物とおもえない枯れて黒ずんだキズだらけの丸太がある。それが名香「蘭奢待」、正倉院目録に黄熟香(おうじゅくこう)と記されている香木である。

蘭奢待の各文字、蘭には「東」、奢には「大」、待には「寺」が含まれていることから、「東大寺」の名をを隠した雅名といわれる。よくできたものですね。蘭草の和名は藤袴、キク科ですから菊のような匂いだろう。それはよいが、麝香はジャコウネコが知りの辺りから分泌する強烈な臭い、薄めると良い匂いになるので香水に利用され、シャネルの香水もこれが特徴だ。しかしジャコウネコはアフリカから東南アジアの熱帯林に生息し、イタチや顔はタヌキに似ているが日本にはいない。麝香を原料とする香水が奈良時代からゆにゅうされていたのだろうか。

とにかく蘭奢待名が世に広まったか、寺々はこぞって寺宝に蘭奢待をくわえるようになった。長慶さんも自前の長慶寺寺宝に一片を所有していた。現在はインドネシアで樹液を固めて造られ、供給は充分ある。

お寺さんはお香を多用するのですが、どうも抹香臭い。それがしは匂い袋も、香水もきらいで使わない。奢待蘭にいたっては、どんな香りを放つのかさっぱり見当がつかない。千年の古木が果して香りを発散するであろうか、それがどうも焚くと香るらしい。なんでも水滴を加え香炉に入れた木屑をジリジリ焚いて、鼻先で香炉の蓋をとると・・。香道の趣味人にはわるいけれど、燃やせばどんな木でも臭いも煙りもでます。

●正倉院展にも出品
正倉院展にも過去数2度展示されており、近々は2011年だった。次回は2000年代半ばであろうか。写真のようにゴロっと横たえてある大きさが解りにくいが、長さ156.0B、11.6Lの大きな枯れ木である。太い部分の中が切り取られて空洞になっていて、聖武天皇が遺した頃から空洞なのか、つまみ食いのようにして削り取られていったのかはわからないが、阪大薬史学の調査に依れば表面だけでも38カ所の切り取られた痕跡があり、重ね切り想像すると50回はあるという。

正倉院展カタログより

●蘭奢待を切り取った強者たち
宝物「蘭奢待」を切り取った人物で有名なのは織田信長である。ところが写真で見るように切り取ったあとにメモ(紙箋)が貼られていて、
『織田信長拝謁之處』
とある。4センチ角を2個ノコギリで切っただけ。比叡山を焼き討ちし、僧侶を屁ともおもわぬ信長にしては、たいそう慇懃である。信長はまず東大寺に順慶を使者にたて、拝見の書状をもたせて問うている。勅封された正倉院宝蔵は東大寺一存であけられず、勅使が開封することになるのだが、信長はこの四日後に勅使をともなって筒井順慶の多門城に到着した。2個切り取ったわけは、一つを天皇に献上するためであった。

その他、室町幕府三代足利義満、その子六代将軍義教、その子8代将軍義政、維新後は明治天皇が神武天皇陵に行幸されたおり、東大寺の本坊東南院に行在された。このとき行きがけの駄賃のように、蘭奢待を大きめに切り取られている。紙箋の一枚に『明治十年依局敕切之』とあるのがそれである。






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