●展示場の見張り番
美術館や博物館には展示室内に見張り役がいますね。それなりの制服を着ていますが、たいていアルバイトの人だから展示物については何も知らない。中には正規職員がいて、一度高松のピカピカ新しい香川県立博物館に行ったとき、興味ある絵の前で拙子がメモを取ろうとボールペンを取り出すや、サっとにこやかな制服女性が現れ「ボ−ルペンは禁止ですのでこれをどうぞ」と鉛筆を渡してくれました。入館者用の鉛筆である。入館者より場内の女性職員が多いほどで、県営だからできる制度である。ボランティアの退職者といえば、栗林公園のガイドにそんな一人がいて案内して頂いたが、大変詳しく有難かった。
●三月堂で拝観者が接する番人さんは
さて本題にゆきます。三月堂では時拝観料の窓口に若いもモギリ壌でなく、厳めしそうなシニアがいる。堂内では柱にもたれるように立っているシニアがいて、普段着だがそこはかとない坊さんの雰囲気があり、思うに東大寺退職者のお勤めではなかろうか。聞きただした分けではないが、小生は遠慮なく不満を言ってみた:
「日光・月光を東大寺ミュージアムに移したので、三月堂の価値がなくなりましたな。梵天さんを持ってけばいいのに、あの巨きい帝釈・梵天はヌーボーと幽霊みたいでよくないですよ」。見張りに役氏は、当たり障りなく、ハッキリ仰らないが、「日光・月光はお帰りにならんでしょう。ミュージアムの方に永久貸出になるとおもいます」との由。「何がいま持ち出されているのか書いてくれませんか」とメモ用紙とボールペンを渡すと、まるでお経の数行を書くようにサラサラと六躰の仏像名を美しい楷書で記された。即ち『日光菩薩、月光菩薩、吉祥天、弁財天、地蔵菩薩、不動明王』。おもわず居住まいを正して鄭重に礼を述べる。
●東大寺にも高齢化
戒壇院の拝観でもそうだったが、丸刈りのシニアが窓口と堂内にいる。だから拙子のような意地悪な呟きには相手にしないが真面目に訊ねれば公式見解が聞けるにちがいない。東大寺には本山ほか40以上ある塔頭があり、引退年令が決まっていない僧侶は多くないが、事務職、雑役などのほか、幼稚園、名門学園、身障者療育院などを経営する。いまは月給制ですから退職年令があり、全体の雇用者数はつまびらかではないが千人は下るまい。そして高齢者社会は東大寺も変わらない。拝観窓口や堂内監視員が退職者の二度目の勤め口になっているのはうれしい。