安達正興のハード@コラム
Masaoki Adachi/安達正興


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奈良の零れ百話/猫段とヘンな造り物
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( 2015年 5月 29日 金曜日


●むかし山猫が出たという坂
大仏殿の東側中程から鐘楼へ上がる広い幅と踏 面(ふみづら)の石段を「猫段」とよび、拙子の親の世代はここで転ぶと猫になると脅かされていたそうです。しかしそれがしの子供の頃は聞いたことがない。 古書には「猫坂」と記されているから実際に野生化した猫が出没したのだろう。学術的には日本列島に山猫はいませんから。全国各地にある「猫坂」の地名も似 たり寄ったりで、野良猫がたむろする坂が地名になった。

一般の観光客は、二月堂のお水取りや、三月堂へ行くのに大仏殿の前から手向山八幡宮の方へ行くか、途中で左へ折れて二月堂と三月堂の中間に出る道を選ぶ。それで帰る時になって、大仏殿に向ってこんな趣のある道があったのかと、みやげ物喫茶の前を、行基堂、俊乗堂、鐘楼のある広場へと下りてゆくのである。そんなわけで猫段はいつもヒッソリしていて、古刹の風情が漂い、好きな場所である。

   
「猫段」、上に鐘楼の屋根が見える。こここから二月堂、三月堂にかけて沢山の写真とメモを取って来たのであるが、いま皆目見つからない。それで、今回の写真はすべて適当に借用です。悪しからず。石段の初めはなだらか、終りは急坂で幅も広くない。

●これはなんだ!
ところが、風情のある猫段登り口の右(東南門 かど)近くに、ヘンなものができている。「アショカ・ピラー」と「相輪」で、子供の頃にはなかった異物である。「アショカ・ピラー」つまり、アショカ王の 柱という名称だが、このマウリヤ朝三代目の王様は仏教に熱心で各地の寺にこのような九輪の搭を建立したという。東大寺は華厳宗総本山で、八宗兼学の学問所 ですから一宗派に属さない。インド仏教のアショカ・ピラーもOKといえ、この置物は何故だ!

 
柱頭の装飾を見せるためか、基台の上に柱頭を載っけたピラー抜きの「アショカ・ピラー」。


高さ23.3mの「相輪」。天平時代にはこれを搭頂に頂く七重塔が南大門と大仏殿の間、東西に建っていた。

大阪万博に東大寺が出品した七重搭の相輪を此所に移した。七重塔というのは場所柄、東塔の九輪搭を模したものとおもうが、ご存知のように東大寺が治承の兵火で焼け落ちる前は、興福寺の五重塔より高い回廊付きの豪壮な7重の搭が東西に聳えていたのである。再建され た鎌倉期の東搭は落雷で焼けてしまい、今は塔跡が残るのみ。したがって、せめてもの「相輪」ですが、拙子は風景を損なう無用な展示物とみる。それがしは、 万博が終わる年に移住したので、万博は見ている。しかしこの相輪には気がつきませんでした。

●鏡池の人口滝
鏡池は子供の頃から濁った水で、それでも鯉や フナがいた。人通りの絶えた頃、ガラスビクを水中に沈め、翌日夕方引き上げると小さな鯉が入っていた。わが家の水泉に入れておくと大きくなる。何度もやっ たわけではないがスリルがありました。最近は見違えるように水がキレイになって、何故かと思ったらバイオなのでした。水質浄化に有効な微生物を詰めた液 や、微生物ダンゴを撒くとたちまち青々とした水質に早変わり。いわゆるEM(Effective Microrganism)効果という技術である。

ところが鏡池の東北角に「人口滝」ができているではないか。段差は小さいが幅のある人口の滝が設えてあり、いったいどこから水を引いているのかしらないが、水質浄化には役立つだろう。しし目立たないやり方もあろうに、なぜそこいら中のショッピング街に見られるような滝を拵えるのか。東大寺ミュージアムのような意義深くて優れた建物を設立する一方、ヘンな小細工で拙子を悩ませる。(了)






Pnorama Box制作委員会


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