安達正興のハード@コラム
Masaoki Adachi/安達正興


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ヴェニスの奇跡(連載6)
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( 2014年 10月 2日 木曜日


●温泉地を後に
温泉保養地、シミオーネからヴェイネチア外の安ホテルに戻る1日です。Iで昨日の老眼おばさんにブッキングの礼を述べて、帰りのバスを確かめる。鉄道をとるならヴェロナよりデセンツァ―ノが近くて良い、というのでそちらへバスで、日程ではヴェニスの少し手前にあるパドヴァを見る予定。今回も指定席に横着ものが座っていたので、追い出す。相向かう4人座席で、あきらかに指定券なしのオヤジが悠然と独り居座っているが当方には何も言えない。これがイタリアだといえばそれまでだが、まあいい。H奥さんが主人が忙しく撮影やスケッチにかけずる間、アイスクリームとバケットと飲み物を買ってきたこのバケットが大きく、半分以上残っていたのを、いま車中でゆっくり食べる。テーブルが大きくなるので、こういう列車内で向き合って弁当を食べる楽しいひとときは日本ではできなくなっただろうか。

●パドヴァ
パドヴァは大学都市、文化都市といわれるそうですが、見るとコペルニクス、ガリレオ・ガリレイ、ダンテダンテやペトラルカが教鞭をとっていたという。維新後のわが大学とは比較にならぬ歴史があった。その中心部を散策するのはシンドイ、郊外に有名な尼僧院があると聞いてきた、iで訪ねると、ここにひとつあると、バスで1時間Abano Pragliaを教えてくれたのところを教えてくれた。これが間違いのもと、正しいバスに乗ったはいいが、観光客とおぼしき客はゼロ、行く先を言えば、はい、はいというばかりで後どれくらいとか、そこの修道院についてなどまったく話が通じない。バスの運転手しかり、タクシーに聞け!ともうかんかんである。

しかたなく目的地のAbano Pragliaという教会前の広場で降りて実際途方にくれましたな。閑散としてTaxi乗り場などない。幸い場違いにきれいなレストランのおかみさんと娘さんが親切に、聞いてくれて、客が一人もいないのだから暇つぶしでもあろう、よくよく話をすると、僧院なんか至る所に有るというばかり。どうやらHさんの調べた尼僧院は市街地にある「スクロヴェーニ礼拝堂」とわかり、これはもうあのバスで戻るなんて真っ平、タクシーを呼んでもらう。バスは紆余曲折して乗客が代るが、直線ならそう遠くはないと言う予感があたり、運賃駆け引きは37ユーロで決着、これは3人のバス代と同じである。若い運ちゃんはなお教会で待ち時間いくら、そこから鉄道駅迄いくらで行きまっせとしつこいが、「お若いの、われわれだって駅までくらい歩けるよ」と断る。このやり取りを後ろで見ていたHさんが、喧嘩腰に聞こえたのか、ひやひやしたとの由。

●スクロヴェーニ礼拝堂
さて、この礼拝堂は有名な観光スポットらしい、後1時間と言われて、博物館のジョットの部屋をぐるっとみて礼拝堂の列に並ぶ。まず30分余のヴィデオの説明があり(イタリア語で英語字幕)、3人揃って一眠り。そのあいだに前の一団が礼拝堂見学を終り入れ替えとなる「ところてん式」である。

礼拝堂(チャペル)といえ、ただバシリカ形に左右の棟がないだけで日本ではありえない天井の高さと広さがある。それをジョットがフレスコ画で埋め尽くしているのである。かまぼこ型天井には鮮やかすぎる濃紺に星がきらめき、双璧に、マリアとキリストの物語を、テーマ毎に分けた聖画はもちろん、壁に嵌め込んだ大理石も描いた画、大理石の柱もフレスコ画である。見事なものです。柱の大理石もようは、模様の美しい大理石が撮れないノルウェーなど、大いにこのテクニックで描かれているのですが、絵の具がマットで一目で似せた絵とわかるが、ここのは細部まで超リアリズムにうまい。よく見る「ユダの接吻」はここの壁画の一枚でした。

以前バチカンで見たシスチナの天井画、壁画を描いたミケランジェロはすごかったが、静的なジョットもいいものですね。画家のHさん、虫眼鏡で見るように検視していました。フレスコは作った絵の具をすかさず塗らないと乾いてしまうので、絵描きは腕組みして考えてるヒマはない。ダーと着実に描き進む実力がいる。なるほどです。

さて、このチャペルを建造したのは、中世、高利貸しで財産を築いた男が贖罪を期して寄進したという。

↓「最後の審判」に描かれている礼拝堂を寄進する男はエンリコ・スクロヴェーニである。この名前が気になっていたが、ダンテの神曲に出てくる同名の金貸しは父であるという。あわてて平川祐弘氏の本『中世の四季ダンテとその周辺』をめくる。おそらく『地獄篇・第三の圏谷−金を貯め込んだ者と費ひ過ぎた者』にでてくるのであろうがか直ぐには容易に見つからない。かわりに「ダンテとジョット」の項を読み返し、稀代の詩人と画家の交流を読む。

↓(斜め下)天井アーチの左側に描かれた「受胎告知」の天使ガブリエル。写真はありませんが中央は天使を遣わす神。右側にはお姫さまのようなマリアが描かれておりまする。それがしカメラを忘れたので、映像はウィキから拝借。


まあこのあと帰りはトイレに時間がかかり、特急に乗り遅れるなどしたため各停で帰る。夕食はホテルでラーメンでもということになり、昼のバケットも残っているしビールとウイスキーをホテルのバーで買ってHさんの部屋で無事に帰れたと祝杯。こんな安ホテルでも住めば都と申しましょうか。頂いたカップヌードルが旨いこと。(続く)

補注・インフォで聞いた尼僧院ABANOのPRAGLIA がウソッパチとおもわれずベルゲンに帰って調べると、ちゃんとあるではないか。どうも僧院Monasteryの英語がiの他には通じなかったのが原因のようだ。後知恵だがAbbey なら通じたかも。この僧院は非常に大規模なもので、アバノの広場駅から少し入った森の中、正式にはAbbazia di Praglia(プラグリア大修道院)という。前以て尤もな理由のある見学の予約なしに入れそうにない生きた修道院である。むしろ行けなくて幸いだったとおもう。






Pnorama Box制作委員会


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