●中国の夢
そういえば紅楼夢なんかどうだろう。深窓の令嬢と令息の物語ですから、太子党の子息に照合する、しかし紅楼夢にはときの道徳や政策をけっこうに批判している面があり、いまの太子党は護身に必至だ。
次におもいつく中国人の夢とは、財産作りに成功し、子女をアメリカに留学させ、財産を持ち出すことである。もはや97% の国民が叶わぬ夢と諦めたときにこみあげる怒りを権力で封殺することができるだろうか。
全人代で主席に選ばれ三権を掌握した習近平が閉幕式で演説した。これから10年世界ダントツの人口を擁する中国の最高権力者の所信演説である。いま一番注目すべきこの演説が、ほんの数日で旧聞になる。何故かと言えば、演説内容が昨年暮れ,副首相の時に「中華民族の復興を実現することが、近代の中華民族の最も偉大な夢だ」と講話した。またおなじことを唱え、おなじように具体性がない。
全人代25分の演説では、単語「中国の夢」を15分間で9回使った。何回使っても、どんな夢なのかちっとも夢の中味を明かさない。率直に言えば共産党政体の維持だから、言えないない。外国ではそう理解し、中国市民も例外ではない。彼らの夢は冒頭に書いたアメリカへ逃亡、次に豪州、日本、韓国の順である。
●民族主義は覇権主義に向う
われわれに判っていることは、昨年東シナ海と南シナ海で軍事演習をおこない、フィリピンやヴェトナムなどと領有権を争う南シナ海を自国領として線引きし、軍の監修した、つまりそのとき人民解放軍のトップであった習が作った、地図を出版したのである。9 dashed U-lineと呼ばれる独断による中国領海である。さらに、中国各地で反日暴動が起きる直前の一週間、胡錦濤の後継者になる習が雲隠れした事件があった。この間、 消極的な胡錦濤をけしかけ追い込むために、習は反日デモを仲間内に根回ししていた、ほかに理由があるだろうか。
●国家が民族の復興を言い出したら
習近平のいう「中華民族」とは、 多民族からなる中国を少数民族も含めて 民族の総体をいうらしい。毛沢東はニッチもサッチも立ち行かなくなった危機的政体と社会情勢に風穴をあけるため、破総体としての民族、収奪される農民を味方につけて、文化革命を始めた。中華民族革命である。
現今の中国と、文化革命時代の中国とは国力に雲泥の差はあるが、国内的な騒乱の芽生えは1966年から10年つづいた 毛沢東による無産階級革命と共通する。いまは、農民よりも都会の市民から組織的な反政府運動が起こる危険があるため、習近平は先手を打っている。内政では、汚職撲滅のポーズ、地方農民の生活を知るイメージ、強権と粛清のバックになる軍に色目をつけて掌握したことなど。外交では米、EU、ロシアとは協力パートナー 、日本 をワザと軽視する。
中国が日本を軽視、あるいは挑発するのは、そうすると日本側がにじみよって来るとことを経験から知っているからであって、阿部政府ではそうもいくまい。といっても尖閣を挑発したのは国有化した日本、南支那海を挑発したのはアメリカ海軍のアジア旋回(Asian Pivot)だ、という身勝手な論法が踏襲される。(了)