●ベネディクテ16世の引け際
その日、約束通り2月の終りに法王はコンクラーベに集まった枢機卿たちにシンミリと別れの挨拶を述べ、横門から車で去った。前後を警護の車でかためて近くの丘に待つヘリコプターへ向う。このヘリには『イタリア共和国『と書いてある。ま、バチカンは法王専用ヘリを所有していないから、借り受けたのか提供されたのか。どっちでもよかですね、失礼。
●ヘリコプターでローマ上空を旋回
そのへりでローマの上をゆっくり円弧を描いて一周するのですな。それを空中撮影しているもう一台のヘリがあるわけで、手のこんだ演出だぞこれは。ローマの人々すべてが、去り行く法王を慕い見ることが出来るように、との配慮である。実務的で、宗教的な式はないのだけれど、やはり花火や爆竹イベントは異にする,厳かなモメンタムでした。コロセウムをはじめ、遺跡の上空を飛ぶ法王のヘリを見ていると、バチカンが無比不二の重力を感じる。ワシントンや霞ヶ関が移転することがあっても世界のカトリック総本山であるバチカンは永遠だ。
●晴れた笑みこぼれる
前日には、サンピエトロ広場にあつまった15万の観衆のなかをガラスの立ち車で進み、最後の顔見せ(一般謁見)と別れを告げている。ヘリから自動車で引退後siしばらく生活するローマ郊外、河の畔に立つバチカンの離城Castel Gandolfoに入った。終の棲処となる離宮(Mater Ecclesiae)がリハビリ中のため、街中の城に移ったのだが、この城はメイン道路の終点にあって,その道路は2万人の観衆でギッシリ。このまちは子供や幼児を含めて全人口が2万人というから、半分は他所から来た信徒,観光客なのでしょうか、この法王は深く静かに人気がある。
そうこうするうちにプログラム最後の夕6時の「別れの挨拶」に上階の窓に現れ、これからはただの巡礼ですと、にこやかな顔ではっきり述べられた。原稿ナシはとてもめずらしい。重すぎる肩荷がおりたのか、初めてみたような晴れ晴れしい表情に嬉しくなりましたな。
なにごとのおわしますかは知らねどもかたじけなさに涙こぼるる
カトリカーには気高く崇拝の対象でなのですが、外者の感想としては西行の句が響く。(了)