●晴天の霹靂
バチカンで退位を表明するベネディクト、二人の助祭に抱きかかえられるように会見の場を去るのを見ていると、急に老けた感じがして、ご苦労様でしたとありがたく思えました。退位するなんてツユ程にも考え及ばず、晴天の霹靂でした。
サンピエトロ大聖堂は祭壇まで非常に長い。もうかなり前から、法王は祭壇まで台車に乗って、中央を左右の会衆に手を挙げつつ進む。足腰は相当弱っていた。それでも 昨年はキューバに行きましたよね。首都ハバナで熱狂的な100万人を前にミサを行い、ラウル・カストロと会談、ついにフィデロも医者付きで現われてベネディクト16世と会談した。あのときカストロは85歳でしたから、それを思えばいま85歳で退位する法王ははるかに健康だ。しかしカストロのような覇気がない。
● 教会内部のスキャンダルに疲労
カトリックの内部問題、特に司祭の児童セックススキャンダルが絶えず、米の大司教が隠蔽工作するなど、法王を疲労させた。さらに側近の執事が公許事業にまつわる不正文書をマスコミに漏洩した事件が心労を加速させたようだ。
わたしは先代のヨハネ・パウロを批判して、いったいいくつコラムを書いたか、痴呆症が顕著になってからは、はよ引退せー、と毒づいたが、ベネディクト16世については、就任後間もなくに「ローマ法王の空虚なアウシュヴィッツ訪問」(2006年5月30日)をコラムに非難してから何も書いていない。たいへん保守的な教義(ホモどうしの結婚や、女性司祭に反対)を堅持した人だが、法王や、国王はやたら新しい改革精神がなく伝統的なのがよろしい。
●晴天の霹靂
ベネディクト16世、265代の法王が在任中に退位するなんてことは前代未聞、病気で寝たきりでもないのに、誰も考えなかった。知っていたのはドイツに住む弟だけで、彼のいうところでは医者の助言を入れて、このひと月退位を考えていた由。日々、側近の司祭や身の回りの世話をする者も全然しらなかった。まさに晴天の霹靂、Thunder in blue skyであった。
法王自身が退位した中世では、嫌気がさして辞めた法王もいるが、大方は政治的に追放され島流しになったり、ツメバラ斬らされたり、政争絡みである。死ぬまで辞めなかった先代の側近中の側近だった現法王は、地位に固執する先代の見苦しさを見ていた。あーはなりたくないとおもっただろう。とはいえ勇気のある決断であった。
今月末、28日に正式に退位し、後継を決めるコンクラーベに一切タッチしないことも清々しい。本名Joseph Ratzinger _心にもどって、お好きなモーツアルトとべーとーヴェンをお楽しみください。(了)