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ヤグランが私物化したノーベル平和賞選考
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( 2012年 10月 14日 日曜日 )
●EUに平和賞だって? クソッタレ/ Peace Prize to EU? Oh Shit!
2012年10月12日、午前11時、オスロのノーベル研究所で恒例の平和賞発表があった。選考委員長ヤグランが「受賞者はEU欧州連合」というや、会場はため息がミックスされた抑えた歓声が瞬間的だった。TVを見ていたノルウェー人の大部分は愕然とし、SHIT (クソッタレ)と罵詈しただろう。ヤグランのやり方だ。 直後に行われた当地の世論調査で賛成は4分の1、最大与党労働党の支持者でさえ賛成は36%に止まっている。ご存知のようにノルウェーはEU加盟の国民投票を2度とも否決し、スイスとともにEU圏に属さない。賛成が多いのはEU加盟を望む左派のなかのグループである。ノルウェーは人的物的のEU市場アクセスやEU圏内で入国審査を免除する『シェンゲン協定』を結んでいるが、その協定に高額のEU費用を背負わされている。不賛成の中には、この不公平協定の廃止まで踏み込むグループもある。 ●キャリア上手のヤグラン ヤグランは叩き上げで組織の根回しだけはできる。労働党の党首から2000年、女性宰相ブルントランドの長期政権後に党首におさまり首相に選出された。ブルントランドはあのバカが跡目になって、と驚いたが後の祭り。ヤグランは首相になるや国家計画相という任を新設し、ポン友の国連中東特使だったレッドラーセン(いくつコラムで批判したか、トンでもない男)を任命。ところが納税不正が暴露されて一カ月で辞任に追い込まれ、その後任に国立図書館長という政治トンチンカンな知識人を任命して笑い者になった。その国家ヴィジョン「ノルウェーの家」は国家を家に模し、一つの基礎の上に家を支える立つ四つの柱から成るというもの。 The foundation represented, "the collective value creation within the ecologically sustainable society". The four pillars that hold up the house were business and labour policy; welfare policy; research and educational policy; and foreign and security policy. 基礎とは『生態学的に持続可能な社会における集団的な価値』。家を支える四つの柱とは『ビジネスと労働政策;福祉政策;研究と教育政策;外交と安全保障政策』である。 ●戦後最低の首相ヤグラン 上記ノルウェービジョン、いわば国家百年の計をマジックで大きな紙に描きながら説明する。お笑い番組みたいでしょ? わたしも生TVをみたがばからしさに唖然とした。国会の食堂にあつまっていた議員さんたちが嘲笑したというが、さもありなん。ヤグランは一年足らずで外相就任と引き換えに辞任、このときも北欧から英語が出来ない希有な外相に唖然とした。世界中を回って誰それと会った、誰それにも会った、と臆面もなく吹聴するヤグランはおおよそ恥じらいのない人間である。 この任も能力不足と不人気で野に下るのであるが、国会議長に祭り上げられ、2009年に欧州評議会議長に当選した。なに、ノルウェー政府が売り込みに奔走したカネの力である。欧州議会はEUを補完する意味合いがあるといえ、規模はウンと小さく、権力ポジションではない。同年、任期切れのノーベル委員長の後任に指名された。ここは委員長が2票を持ち6人の委員は温厚タイプのため、ヤグランは私感を押し通す事ができるのである。顰蹙首相ヤグランのその後のキャリアはすべて次期首相の地位を譲ってもらった報償にストルテンベルグが後押しした結果である。 ●我意を通すノーベル委員長ヤグラン ノーベル委員長に就任するや、オバマに有頂天のヤグランはまだ就任9ヶ月のオバマ大統領に平和賞を決定したのでした。歴代委員長にはまとめ役タイプが多かったが、ヤグランは腰の低い対話型を演じながら実は人の話が耳に入らない職権乱用型である。このときの腹立たしさは、コラム「ヤグランが選んだノーベル平和賞」2009.10.10に書きました。授賞理由のイスラムとの対話はどうなったカ、オバマ授賞が失敗だったことはいまや歴然である。 EUへの授与理由は「大戦後、前身のECこのかた60年の平和と和解の国、民主主義と人権の進展に貢献した」と、オバマのレトリックにイチコロになったヤグランの理念はこの程度である。バルカンの和平に貢献した例を挙げ、欧州に波及するのを防いだと、なんという戯け言を。EUがなかったらユーゴが転覆してバルカン半島の市松模様の民族国家が戦争をはじめたように、英独仏その他の欧州国家が第三次大戦を起こすというのか。バルカンのような火種は第二次大戦で西側欧州から消えている。 ●喜べない経済金融危機のEU市民 景気低迷に出口がみえないいまのEUは、ギリシャ、イタリア、スペイン、フランスのせいかくレベルが低下した市民たち、失業率が20%、半分が失業しているスペインの若年層にとって、平和賞はバッドジョークである。実際には欧州の南北経済戦争が、まさにEUがあるために生起したのである。 またシリアと交戦はじめたトルコの「禍」を、EUはトルコの加盟を先延ばしする「福」とし、関与を避けている。しかるにヤグランはNATOに属するトルコのEU加盟がEU平和に不可欠と趨勢に反する意見を述べた。この件ひとつでも欧州市民から鼻つまみだろう。受賞に悦ぶEU首脳やEU各国の首長たちのニュースは、市民社会の反応を伝えていない。 ●組織に平和賞を与えていてはキリがない EUのような国際組織は多い。国際赤十字や国境なき医師団(MSN)、授賞に疑問が残る国際原子力機関(IAEA)など、既に授賞している機関がいくつかある。国連関係でもいくつあることやらこの種の組織に授与していてはキリがない。 当地の大手新聞編集長がトルビョルン・ヤグランTorbjソrn Jaglandを「深い考えはないが流れに対して頭から突き進む鱒(マス)」に喩えていた。EU危機の真っ最中に、EUを讃える。薬が欲しい患者に花を贈るが如し。(了)
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