安達正興のハード@コラム
Masaoki Adachi/安達正興


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続、ジョン・ガードンと山中伸弥
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( 2012年 10月 10日 水曜日


●ゴードン、普段着の記者会見
髪が薄くなってハゲが時間の問題になってきた小生が、ジョン・ガードンJohn Gurdon (79歳)の記者会見の映像でまず気付いたのは、髪がふさふさとしていることでした。くだらないけど自然に目が向くのだな。

ご本人は、朝早くイタリアから受賞の感想を電話で聞かれて、「知らないね、噂だろう」と掛け合わなかったが、8時半にスウェーデンの選考委員会から知らされた。受賞知らせを受けて急ぎ普段着のセーターのまま研究所での記者会見に臨んだ。山中教授のように奥さまが選んだスーツ、ネクタイ姿では反ってそぐわないのかも。

イギリスは米と並ぶノーベル賞大国である。嬉しい大ニュースであるが国をあげて騒ぐほどの珍しさはないので記者会見はマイク三つを前にひとりで、左右に研究所のスタッフらしい若い女性が二人控えているだけ、記者とカメラマンをふくめて30人ぐらいキャメロン首相から電話もなかった。山中教授の記者会見になぜ学長ほか数人が居並ぶのだろう、あれはとても無粋で受賞者に失礼ではなかろうか。日本の慣習ですかな。

●科学理論は実証されるまで仮説
二人が分け合う選考理由に"These groundbreaking discoveries have completely changed our view of the development and specialisation of cells._細胞の特化と発育の概念をまったく変える画期的な発見)という一節がある。ガードンは50年の後、山中は6年後で受賞した。ゴードンさんに忸怩たる気持ちがなかったと言い切れないが、記者会見では実に清々しく研究の成果、実証と栄誉について公平に把握している高潔な印象をうけた。記者会見で実際のカエル実験は58年、論文発表が62年であったこと、科学理論の正否を確認するまで限りない忍耐を必要とすることを淡々と話す老学者の笑顔がうつくしい。

●魁の研究Gを踏み台に飛躍したYの見えない絆
「受賞できたのは山中氏の発見がブレークスルーになったおかげである」と、質問されてもいないのにさらりと話す。山中さんの新手法によって倫理問題から開放され、研究が一気に加速した。まったくおなじことを山中氏は言った:「ゴードンさんのおかげで受賞する事ができた」。ゴ−ドン氏の発見がなかったら山中さんが幹細胞の研究、4個の遺伝子で皮膚細胞を幹細胞につくりかえる(初期化)などという素人にはおとぎ話・奇想天外なアイデアを考えつくことはなかっただろうと想像される。ゴードンさんが論文を発表したその年にうまれた山中さんが継承発展させた。運命的な偶然か、地球の反対側にあってふたりは同じことを述べた。

以前、山中教授がWSJのインタビューで「細胞の初期化は、分子・細胞生物学の基本的な技術がある科学者なら誰でもできる」とたいへんオープンな発言。自分の研究成果に自信があるから言える正直さである。できないヤツほどしかめっ面して「ムズカシィ」を連発しますね。


●生物課目を落とした少年ジョン
ガードンさんは15歳のとき、名門イートン校で生物の成績がビリ、そのためターミネート(落第)され生物の授業が受けられなかった。校長から両親にケチョンケチョンノ通知書が送られた。このネピソードは有名らしく、記者に問われておもしろそうに応えていた。校長だってまちがいはある、臆せず研究に打ち込めと後進を激励するため研究室の壁に貼ってあるという:

GURDON SCIENCE REPORT
1949の夏期(15 歳)、クラス;D22 、科目;生物 出欠;18:/18,17/18,15/18 
評価;231/550(落第点)
<I believe Gurdon has ideas about becoming a scientist; on his present showing this is quite ridiculous; if he canユt learn simple biological facts he would have no chance of doing the work of a specialist, and it would be a sheer waste of time, both on his part and of those who would have to teach him.> (署名)

ガードン博士は現在ケンブリッジ大学で氏の名を冠した研究所の所長、つまり退職制限のない研究者として特待のポジションにある。そのことを氏は光栄と感謝し、本日8日の午後6時に研究所でお祝いのドリンク(飲み会)があると愛好を崩す。

●欧州経済の後退は賞金にも影響
さて、翌9日に物理学賞の発表、ここでも米と仏の学者が分け合った。スイスと之を除く欧州経済の下降により、1億円の賞金が8000万円に目減りした。しかしノーベル賞科学分野の権威は不動、公明正大への信頼は微塵も揺るがない。こういうありがたい具体例は少なくなりました。(了)






Pnorama Box制作委員会


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