安達正興のハード@コラム
Masaoki Adachi/安達正興


-------- ----------------------------------
ノルウェーテロ、独立調査委員報告
------------------------------------------
( 2012年 8月 15日 水曜日


●政府、治安当局をコテンパンに批判
昨年7月、静かで平和な国ノルウェーを震撼させたブレイヴィクのテロ事件(当地では22.07.11と日付けで呼ぶ)を調査する独立委員会の報告書が13日発表された。報告会には首相、司法大臣、警察長官始め、ディグニティーたちが最前列に座り、調査会委員長(女性のド迫力ある政府、治安当局の批判に神妙に聞き入った。コテンパン、グウの音も出ない・痛烈にして完璧な報告書である。先に出た内部調査書とは資料が不足した点を考量しても雲泥の差。東電の内部調査書とよく似たお手盛りだった。今回の原文は二段組み、482P−ジの全文をネットに掲載、PDFで落とせます。但しノルウェー語です。

●初動捜査の重なる手違い
事件の対応すべてが後手後手にまわった。まず政府庁舎集合域の首相府ビルの真ん前にワリモート発火爆が詰まったワゴンを駐車して、一帯を吹き飛ばした第一のテロについてみると、政府域内に一般車が車を入れないようにする警備措置が2004年来議論されてきたが、歴代法務大臣は先送り、ストルテンベルグ首相に催促した幹部に首相は第一補佐官に報告するようにと押しやったという。補佐官は首相の意向を忖度して不人気な政府区域通行止めを握りつぶした。そうやって8年ほど放置していた結果がこの惨事である。モニターには犯人ブレイヴィックが白いワゴンでビル前に駐車、警官を装った服装で手にはピストルを持ち、振り返りながら悠々と歩道を歩いているのがモニターに写っていた。

●ずさんな警察連絡網
警察はこの情報を知りながら、機動した警官に報告していない。またブレイヴィクが次にオスロ郊外、ウトイア島に移動した乗用車の型もナンバーもモニターから解っていた。しかしパトロール中の警官に報告しなかったため、実際にはウトアイ島に向かうブレイヴィクの車と遭遇しながら、みすみす逃がしたチャンスが二回もあった。報告会では警察パトロールとブレイヴィクの動きを事件の経過に添って市街図画面に映し出した。前列の治安警察のトップには破壊的な映像である。

警察内部の連絡は極秘短波を使うためガーガーと聴き取りにくく、警官が動いている場合はなおさらである。単一方向で通話をくりかえすこの手の会話は「……どうぞ」、「了解」などとどうしても紋切り型になる傾向があり、切迫感を伝えるのに適さない。喚くと「落ち着いて」と叱られます。携帯に犯人の写真をつけて送る方がよりはるかに有効とおもう。

●権威すじの習性・隠蔽糊塗
警察隊がウトイアに集合する場所が、島から最短500mの桟橋ではなく、3キロも離れた埠頭からゴムボートに警官を満載してそろそろと。途中モーターストップで助けにきた民間のモーターボートに乗せてもらってやと島へ。また最初に島の対岸桟橋にきた警察車両は指令でUターン、なんやこんやで少なくとも30分のロスである。この30分の間にブレイヴィクは30人ほど撃ち殺している。一分にひとり頃されているのに。当初警察は、警察のボートが用意出来る所とか、対岸では警官の身が危険とか、隠蔽ですね、うまいこと言い逃れしていた。だが報告書ではいくらでも民間のレジャーボートが借りられたし、泳いで逃げた青少年を助けたのはすべて避暑中の人々がボートをシャトルして助けたのである。一人で27人を救助したオジサんもいた。報告書ではゴムボートのガソリンタンクが空気抜きのため開けてあり、警官が大勢乗り組んでボートに水が入り、タンクにも水がはいったため、モーターストップ、そして沈みかけた。助けに行った二台目は機材を載せており、乗り移った警官たちで重量オーバー、まともに進まない。で、通りがかった民間のモーターボートに手を振って乗り移った体たらく。ま、すでに何度もヴィデオで見て知っていたが、なぜそうなったか、ブザマな一部始終が報告書で明らかになった。

●イマジン能力の欠如
阪神・淡路大震災のとき、自衛隊が出動を打診したのを知事は、まだ受け入れ準備が出来ていないという不思議な理由で断った。同じ理屈でボランティアを断り、海外緊急支援隊を慇懃にことわり、近隣他府県の消防支援についても迷惑がったり、事態の深刻さを理解するのが遅い。災害に対処する機材がなかった古代人にくらべ、われわれはイマジン力をうしなった。なんでも「なぁなぁ」、最初はたいしたことないと荒立てないのが好きだ。がこういう痛恨の失敗から学んではじめて、官邸を頭に、あらゆる支援態勢を発動し、被災地が受け入れるシステムが出来上がったといえる。

●修羅場の陣頭指揮
ノルウェーにはテロ事件緊急対応計画があったが、新任の警察長官はある事すら知らず、オスロ警察の捜査トップはその必要なしと甘く見たのである。ウトイアを管区に置くホーネフォス市警察は当日たった一人の警官が留守居をしていただけ。いくら夏休みといえ、なんと牧歌的なことよのう。急いで招集したが、もちろん特種部隊などいないオマワリさんたちである。ここの署長さんも女性Sissel Hammer、おおらかで部下にも市民にも人気があり、厳しい報告書を基礎によりよい体制に努力すると本人は引責辞任する気はない。だけど、修羅場での陣頭指揮官としては落第とおもう。捜査指揮のオスロ警察署長Anstein Gjengedalは厳しい質問攻めやディベートに臆せずメディアに出演、真摯な対応だが基本的に警察組織を守る人にすぎない。警察庁長ッystein Melandは就任して11日目に起こった事件であることから責任は自分にないといった風情。残念にも、修羅場の陣頭指揮官に向く人物は、チャーチルを挙げるまでもなく平和の時代に歓迎されない。(続く)






Pnorama Box制作委員会


HOMEへ戻る