●慈悲深いタンタウィ老将軍の誤算
軍評議会議長タンタウィ( M u h a m m a d H u s a y n Tantawi S u l i m a n)は月曜の夜、TV声明を出して
1) 民政移行の約束をまもる
2) 内閣辞職を承認し新内閣を早急に組閣する(軍の影響力に振れず)
3) 28日の総選挙は予定通り行う。
4) 大統領選挙を前倒し(20212年中)する。
5) 軍は権力を求めない、一部『分子』の行動は国を破壊すると警告
この程度の譲歩でデモを宥められると思い上がっている将軍の群衆理解力に唖然とする。タンタウィ76歳、士官学校に行けなかった兵卒上がりが、策士でない性格を買われてムバラクに一本釣りされ、軍歴をのぼり、国防大臣兼国軍司令官、元帥となった。ムバラクが「もはやこれまで」と辞任を覚悟したとき、この聞き分けの良い子飼いを軍評議会議長兼副首相に任命してあとを托したのである。
●指名後継者の背信
死の床の毛沢東が華国鋒に「あなたがやれば私は安心だ」(英字紙ではHaving you, my heart will be at ease. と記憶)と言ったと、華が言ったのでアテにならないが毛の心境は真実味がある。華国鋒が4人組はじめ毛主義者を粛正したように、タンタウィはムバラクを法廷で裁く。子分は親分を越えたとき保身を謀り背信する、是法則也。
話しをもどして、タンタウィの慈悲深い老将軍を気取った亀の歩みの譲歩と諌めはデモ参加世代に通じない。却って火に油 を注ぐ結果となった。かつてドゴール将軍がパリ騒動(1968)最高潮のときProtestはウイ、Orgy(乱痴気騒ぎ)はノンと一括したらデモの学生たちは急におとなしくなった。タンタウィとドゴールでは格が違うけれど、スマホ時代にきのうのやり方では効くものか。
●軍は甘い特権を手放さない
唯一の平和的解決は民政内閣に全権を譲り、国軍は特権を棄て政府管理下に入ることを宣言する外にあるまい。デモを終止するためには、少なくともタンタウィ辞任が急を要する。しかしながらいま40%の国家予算と政権を握る軍がこの特権を放棄することはありえない。火曜夜、鎮まらない群衆のどよめきがTV映像にいつおわるとも知れず流れる。民政エジプトを願う吾が望みは消えないが、タハヒールは天安門を再演するやも、今宵はそんな危惧さえ浮かぶ。(了)