安達正興のハード@コラム
Masaoki Adachi/安達正興

0

-------- ----------------------------------
「わが闘争」
------------------------------------------
( 2011年 9月 28日 水曜日



●ヒトラー著書と著作権保護期間
ヒトラーの自伝的著書「わが闘争」Mein Kampfはドイツで禁書となっている。ヒトラーは敗戦の45年に自殺、死後70年の著作権保護期間が切れる2015年を 控え、再出版の賛否がメディアで盛んになってきた。著作権を保有するバイエルン州政府、歴史学会、ユダヤ人社会、治安警察、司法関係など見解がバラバラで結論は2015年になってから政府がきめることになる。おそらく再出版されるとしても、公共図書館、大学図書館、歴史関係の研究所などに学術関係者にのみ閲覧できるシステムになるのではないか。現在一部の図書館で研究員が読める方法をも少し拡大することか。

一般には禁書継続となる。しかし、原本は戦前までに1000万部発行されており、現在この「わが闘争」を隠し持つドイツ家庭は数万件あるのではないか。占領軍が家宅捜索して焚書処分にしたことはない。日本でも占領軍が発禁にした書籍はあっても国民に焚書命令する愚はとっていない。

●わが家にもあった日本語版
わたしの家に「わが闘争」と大きな背文字の本が一冊、父の本棚にあった。父が徴兵で満州に出征する前に買ったのだろう。日独同盟でしたから、インテリを気取っていた父のことだ、読まずに飾っていたのだろう。それが戦後昭和50年を過ぎた頃、いつの間にか書架から消えていた。遅まきながらこの本は戦後民主主義にそぐわないと判断したようだ。

この自伝的プロパガンダの書には生い立ちや青春時代の遍歴、ユダヤ陰謀史観、ドイツ・ゲルマンを至上とし黒人を最低とする人種の優劣性、世界制覇の手段と戦略、などが鍋料理のように煮込まれている。胡椒もキツイ。読書に値しない多くの箇所にまじって歴史と政治について直感的なすぐれた洞察がある。天才ヒトラーは歴史の産物であり、特に現代のドイツ人が市民レベルで広く考証して然るべき本である。

●公開が望ましい
「わが闘争」が公的に禁書になっているのはドイツだけでは? 中国やロシアではどうなのか知らないが、英訳本は世界各地に出回っており、ネットで無料ダウンロードも出来る。実際面では誰でも読もうと思えば読めるのであり、禁書の実効は無いも同然といえ、ドイツが法的に公開することは重要だ。この書がニューナチや極右テロ集団に影響があると反対する人々は思い過ごしだろう。

余談1:
当地ノルウェーでベストセラーになっている本の題名がMin Kamp「わが闘争」、全六巻の自伝小説がある。著者はKarl Ove Knausg罫d、繋がりのある人間関係を犠牲にして夫人との生活(現在離婚)、家族や友人を材料に赤裸々な自伝小説である。いろいろな文学賞を受け、数カ国語に翻訳されている(英語版はMy Struggle)。私的には嫌悪するジャンルであり読む気はない。

余談2:
父の書架に諸橋漢和辞典(昭和18年発行)が一冊あった。全巻揃っていなかった(全13巻は昭和30年完成)。父の仕事は油絵が趣味のガリバン屋で、文芸を志したというが、諸橋轍次の大辞典中の最高峰を使うような仕事ではない。いかにもインテリ気取りの為せる所作。初版発行を予約したらしい。しかし勿体ないのでわたしが当地に引っ越す時、この巻一を荷物に入れておいた。もちろん使ったことはないが、そうですね、仕事に行き詰まったとき、日が暮れて道遠しの鬱屈に拉がれるとき、この諸橋大漢和辞典を手にするとまたヤル気にさせてくれます。座右のお守りみたいですね。(了)






Pnorama Box制作委員会


HOMEへ戻る