● 193番目の独立国家
9日、南スーダン共和国の独立式典が新首都ジュバJubaで盛大に行われ、アフリカンらしい爆発する歓びに沸いた。アフリカで54番目に独立、世界で193番目の独立国家である。
当コラムでは、スーダン内戦と南北分離について頻繁に書いた頃もあったが、最近は20年来の内戦がやや下火になったので離れていた。今年1月、独立を問う住民投票があまりにも圧倒的多数(98.8%)で、悪名たかいバシル政権が分離に諦念したのか、独立への移行期間が9日午前0時をもって終り、新しい国旗、新しい憲法、新大統領サルヴァ・キールSalva Kiirが宣誓して新国家が誕生した。
●旱魃と飢餓難民を後ろに祝賀
もちろん南部のキリスト教住民が北部のイスラム国家から独立する方が争いが減る。慶賀すべきなのだが、それほど嬉しがっていいものだろうか。スーダンを含む北東アフリカの最近のニュースは旱魃、所によっては60年来の旱魃で作物家畜が全滅、毎日放映される栄養失調の難民の群れが大問題になっている。
ダルフールでは相変わらず政府軍と反政府ゲリラが戦い、南部でも新政府側と武装グループが交戦し、それとは別に部族間の争いも絶えず、いまでも日々の死者はアフガニスタンやイラクより多い。
●最貧国「南スーダン」の暗い展望
南スーダンはフランスと同じ面積があり、人口8,800万人、そのうち半分が18歳以下という、聞こえは良いがとてつもなく貧しい国。全土にアスファルト道路は全長60「だけというインフラなき世界最貧国のひとつである。石油資源は南にあるが油送は北の首都ハルツームへ送る既存のパイプを使わざるをえない。僅かな割の石油収入でさえ、10ミ20年くらいで枯渇する。それくらいの埋蔵量しかない。
このさき経済が良くなる見込みはチュニジア、エジプト、リビアよりもっと低い。アフリカ人は先のことを心配しない国民性である。それを他人が悔むのは余計なことだが、やっぱり心配せずにおれない。
バン・キムーン国連総長がお祝いにかけつけ、国連加盟承認に太鼓判を押した。それがなんの役に立つ? 当地から開発途上国支援大臣が出席、皇太子が式典で演説、長らく内戦調停に努め現在国連スーダン特使のヒルデ・ヨンソンが独立調印に立ち会った。だれもかれも嬉しそう。明日を考えれば苦渋なのに。
来賓のなかにコリン・パウエル元国務長官の姿を久しぶりに見た。ブッシュはHIV撲滅や飢饉の食料援助など、アフリカ支援にたいへん熱心だったのでパウエルもスーダン調停に尽力していたのである。成果に馳せ参じ共に喜ぶのはいいが、フォロウがなくてはご褒美の掠め取りではないか。
●遠いアフリカ
オバマはアフリカ支援にもう一つ手が回らない。独立と同時に南スーダン市民はオバマに経済制裁を解くよう気勢をあげた。スーダン大統領のバシルOmar Hassanal-Bashirを世界最悪の独裁殺し屋とレッテルを貼ったアメリカの情報に、かく言うわたしも信じて以前コラムを書いたことがある。その極悪人バシルが式典に出席、南の独立を祝福し全面支援を公言した。表情も悪党に見えない。こりゃどういうこった! まことにアフリカは遠く、理解し難く度し難い。わが理解力の低さに暗然とする。(了)