●ネタニヤフ,米議会演説
当地は毎日強い風と時折の雨、初夏というのに鬱陶しい天気が二週間つづいている。先日荒れ庭の草刈りを雨で中断、家に籠って読書の合間に今日はイスラエル首相ネタニヤフBenjamin Netanyahuの米議会演説生中継を見る。
議場でネタニヤフを迎える雰囲気で、アメリカ人のイスラエルへの温かい歓迎と熱気が伝わる。事実,50分に及んだスピーチはスタンディング・オーベーション(以下S.O.と略す)の連続。共和党も野党もなく会場全員がこれほど規律拍手することは近年なかった。報告では48回、1分に1度拍手で中断したわけだ。
●レトリックより率直な言葉
オバマのState of Union2回の演説では与党席に偏ったS.O.で数も多くない。ネタニヤフの議会演説は完全に米議会と傍聴アメリカ人の心を掴む力強いものがあった。
かく言う私も久しぶりに聞き耳をたてて楽しんだのでした。ネタニヤフは前日に親イスラエル.ロビーであるAIPACで演説し「6日戦争前・1967年の境界には断じて戻らない」のところで大喝采を得た。その二日先にオバマが同協会で「1967年の国境を和平の出発点とする」ところで喝采を得ていた。
同じ聴衆が反する主張の両方にヤンヤの喝采をする。奇妙な現象だがアメリカの聴衆には内容への賛否より、スピーカーの意気に陶酔し、Very Good と拍手してしまう傾向がある。
●ブレナイ頑固な和平条件
従ってスピーチの熱気がおわり、ネタニヤフの弁舌を吟味すると「痛みを伴う譲歩Painful compromises の用意がある」と言いながらその実、既定のイスラエル側条件から一歩も踏み出していない。その要点とパレスチナの対立する主張を⇔の後ろに付記する:
▽ イスラエルを危険に曝す1967年の国境に戻すことはありえない。
⇔1976年国境が絶対条件。
▽ エルサレムは分割されない統一ユダヤの聖地、イスラエルの首都。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教が共生する。
⇔エルサレムはパレスチナに帰属する。
▽ イスラエル建国によって生じたパレスチナ難民の帰り先はパレスチナ。世界のユダヤ人がイスラエルに帰化する権利を有するように、世界各地のパレスチナ人はパレスチナに帰化する権利を持つべきである。
⇔イスラエル建国によって生じたパレスチナ難民の子孫はもとの居住地であるイスラエルに戻る権利がある。
▽ パレスチナ領土に関して我々は寛大だ。入植地を一部譲歩する用意がある。人口が密集する入植地の地理的広さはパレスチナ領土全体からみれば問題にならない僅少地区である。
⇔パレスチナ入植地から撤退せよ、
▽ ユダヤとサマリアは外国の占領、イギリスのインドに於ける、またフランスのコンゴに於ける占領ではない。これは祖先伝来の地である!This is the land of forefathers. ここで会場は総立ちの長い拍手。こういうBiblicalな解釈が移民の国アメリカの人民に大受けするのである。
▽ ハマスはイスラエル国家放逐を掲げるテロリスト組織、和平交渉の相手ではない。
⇔ガザと西岸の「合同パレスチナ政府」が和平交渉の正統な代表。
▽ 和平達成の失敗はアッバスがユダヤ人のイスラエル国家を認めようとしない、紛争の行き詰まりはこれが原因だ。
⇔入植の続行が和平交渉中断の原因
▽西岸の復興は著しく、ショッピングモール、映画館、レストランが賑わい今でも経済成長が10%を超える。もし、和平が成立し二つの国家が共存することに成れば、パレスチナの経済成長は素晴らしいものとなろう。
●パレスチナから見れば宣戦布告
以上、従来の和平条件を米議会に明確にした演説。パレスチナ側から見れば冒頭の3項目は宣戦布告、残りはナンセンスだろう。和平交渉の困難さを浮き彫りにした。ミッチェル中東特使が辞任した理由は「進展しない和平交渉に倦み疲れた」とされていたが、オバマの中東演説とネタニヤフの米議会演説を聞いて、辞任の理由はオバマの1976年国境条件表明が時期尚早と対立したからではなかったか、いまそのように思える。
とはいえ凄い迫力と説得力、S.O.の間はシーンと会場が全神経を澄ませて聞き入り、オーっと起立する議員さん傍聴者たち、壇上のバイデン、ベーマー。つられてわたしも歓声をあげておりましたがな。
●余談:傍聴席で反イスラエルを叫ぶ女性がいたが、ネタニヤフは「議会で反対の野次が飛ぶ、独裁国ではありえないこと、これこそアメリカ民主主義の証拠である。わがイスラエルンクネッセも与野党よって野次の応酬がある。(笑い)ホントですよ、知りたかったらBe my Gust!」てなアドリブで応じた。たいへんな役者だ。米で学び、外交官としてワシントンに赴任したネタニヤフは完璧な米語を話し、ロシア訛りのつよいイスラエル政治家と異なるキャラクターをもつ。些細なことだが、主張に批判的でも一貫した政治姿勢が米国民の共感をよぶようだ。(了)