前回の続きです。

●エルドガンのメンツを潰したペレス
トルコ住民のあいだにもハマス支援に走ることを懸念する人は多い。熱気に押されて届かないが、中東和平の仲介に果たしてきたトルコの努力が水の泡に帰さないか、いくらハラが立っても国際中継される討論の席を中途で投げ出すのは後進性との印象がまぬがれない。

トルコはエジプト、ヨルダンと共にイスラエルと国交を持つ数少ないイスラム国家である。イスラエルが空爆に踏み切った日の２日前、オルメト首相はアンカラでエルドガン首相と密談していた。シリアのアサドとイスラエルのオルメトのトップ会談についてである。エルドガンの仲介で実現、国交結ぶをするというはなしに、長年互いに気の知れた関係にありながらオルメトは２日後のガザ攻撃をエルドガンに明かさなかった。メンツを潰され「よくもおれを笑い者にしてくれた」とのい思いで討論に挑んだエルドガンはたしかに言い方がきつかった。トルコ語はわからないが穏健な態度ではない。

●愛国者ペレス
それに対してペレスがあれほど激して声を荒げたのは見た事がない。ペレス大統領は世論のイスラエル批判が高まると、世界各地に正当性を訴える特使ミッションを進んでこなしてきた。シモン・ペレスは白ロシアで生まれ、ユダヤ人の民族意識を否応なく意識して育ち、父母ととともにイスラエルに移住した。人はなんと言おうがこういう経歴の人間が初めて得た故国で敵視者の国々に囲まれ、蓋し烈しい愛国者にならずにどうしていられよう。イスラエルの政界で60歳以上を見渡せば、ロシア系の愛国者が最多数である。例外はアメリカ育ちのネタニエフ（元首相で次期候補のトップ）くらいだ。

BBCにドーハ討論というN.ガウインが司会するシリーズがあり、いちどこのパネルにイスラムからのパネリスト数人に対して独りペレスが受けて立った。沈着冷静の愛国勇者である。そのペレスが激してこう反駁した they とはもちろんハマスを指す：
"Why did they fire rockets? There was no siege against Gaza, Why did they fight us, what did they want? There was never a day of starvation in Gaza."
「ガザに一日とて飢餓はなかった」この言葉はいつもハラを空かしていた少年ペレスが自分の目で見た飢餓の実体験から発する重い言葉である。フム、ノーベル平和賞をもらった御仁でも古傷に触れるとまちのアンチャン風になるのですね。

●国家民族主義と国民民族主義
ペレスは同日のうちにエルドガンに電話をいれ、激高したことを謝罪。応えてエルドガンはそちらに非はないので司会者のせいだと和気あいあいぶり(amicable)がつたえられ、両国の政府間友好関係に変化はない。『国家（ステイツ）民族主義は互いに衝突する。だが国民（ネイション）民族主義に礎づく愛国者は互いに友人である。だがまだ市民（シチズン）主義ほど自由ではない』とだれだったかの言葉にある。なるほどと思う。

●残念、宙に浮いたシリア=イスラエルのトップ会談
あのダヴォス中東討論が、いきがかりでこのようなムスリム民族主義を煽る結果になり、シリアとイスラエルの外交関係樹立の希望を挫いたことが残念でならない。シリアのアサド大統領は父のように頑固な権力者にはみえず、長男の死で次男の歯科医がしかたなく継いだという風情。若かったためか、実際の政治運営は父の部下たちが切り回しており、レバノンを背後で動かし、ヒスボラ支援、パレスチナに武器供給などと、米はシリアをならず者国家にしたが、アサド大統領が関与していたか、わたしは疑っている。最近の発言ではハマスにも非ありと、思い切った発言をした。

●美人王妃、ラニアとアスマに信をおく
アサドはヨルダンのアブドラ国王とおなじくロンドンで教育をうけ、どちらもロンドンでムスリム上流家庭のとびきりの美麗をお嫁さんにした。ロンドン育ちのお嬢さんである。ヨルダンのラニア王妃は世界クラスの論客として西側TVの常連、ヨルダン外交の一翼を担っている。方や、シリア王妃アスマはシャイな方でメディアで話すことはめずらしい。最近王宮でまとまったンタビューがあり、偶然拝見したがとても人権尊重、ガザの惨状に胸を痛ませいかにも王室の麗人的印象あり。フランス文学を学び、JPモーガンのロンドン支店で働いていたアスマ王妃がガチガチのイスラム教徒でなどありえない。その女性の伴侶である歯科医希望者だった男性根がならず者であるわけないだろう。（了）

---

Pnorama Box制作委員会

---