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アイスランドの暗い春
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〈 2009年 1月 24日 土曜日 )
● アイスランド首相、辞任を表明
アイスランドが国家破綻に直面したとゲイル・ホルデ首相が声明を出して以来その後の経過を書き足してきませんでした。(五冊目、08.10.08 先進国アイスランドの破綻、08.11.03アイスランドの憂い、参照)。というのは深刻さを深めたグローバル経済危機に、人口30数万の小国・アイスランドの危機はあまり顧みられなかったため。ホルデ首相が悪性食道ガンの診断をうけたことを機に辞意を表明、5月9日に選挙を行うと発表した。で、この機会にグルーミーな現況にふれておこう。 ●通貨半減、株は紙くずに 表はアイスランド・クローネの対ドル月平均の推移です。これを見ると08年1月から11月に半減した。暴落といわれる英ポンドでも30%以内である。ドル安を考慮すると対円では3分の1近くにもなります。10月に破綻した主要3銀行を国営化したのですが、その効果はグラフにあらわれていない。最悪の11月にIMFの融資21億ドルを得て、やや持ち直す傾向にある。 一方、株価は10月13日開始とともに47%急落、この1年で99.37%下落、文字通り紙くずである。弱いISKがインフレを増長し25%まであがったことがあったが現在は13.3%までさがった。財務省の予測では来年は中銀の目標値2.7%を達成するとの由。楽観的ですね。 ●インフレと金利の戦い インフレを押さえるためIMFは融資条件に金利を引き上げを要求、中央銀行の政策金利は18%に、消費者向け銀行貸し出しは23%という高利貸しも顔負けの高金利になりました。ゼロ金利に近い欧米にくらべ借金の支払いがたいへんである。しかも家のローンを海外通貨建て組んでいた人(殆どらしい)は毎月の支払いが一挙に倍にはねあがった。 失業率が激増していることはたしかなのですが、破綻のまえは2.5%と良好で国連の世界で一番住み良い国のトップでした。海外、おもにイギリスと北欧からの労働者は母国へ帰ったのでその部分は失業率にでてこない。現在7.8%、来年は8.6%をみこんでいる。私感は10%を超えるであります。また今年のGDPはマイナス9.6%、2010年も横ばいとの財務省予測であるが、これも甘い。みなさん信じていないようで大方の国際分析では10〜20%マイナス成長となっている。国家破綻の危機は脱したが長い不況の出口はみえない。 ●投石する目出し帽 淡々と書いてきましたが、状況は経済リセッションに留まらず社会不安をもたらしています。この危機の間、政府の誰一人のクビがとんでいない。おとなしいレイキャヴィックの市民たちも昨年暮れから首相の辞任、総選挙を要求して毎日デモるようになりました。チンチンと鍋蓋を叩き雪投げするいたって平和な抗議です。が、今年に入ってから目出し帽をかぶった若者が石を投げるシーンが2-3度あり、先日はホルデ首相の車に卵が投げつけられた。でもまあ商店を壊したりする狼藉はない。 アイスランドが自国通貨の哀れを知り、ユーロ圏に入る願いを政府関係者も話すようになった。株価ではアイスランドの次に暴落したアイルランド(マイナス76%)はユーロ圏であるため通貨の面での損傷をくい止めた事例がある。しかしこれから準備してもEU加盟申請は景気が回復してからだ。いまはまだ現実的ではないだろう。 ●悪い材料ばかりではない 去る12月、アイスランドはクジラを日本に輸出。日本の税関はIWCの鯨肉輸出輸入禁止規定を大胆に破って税関をパスさせた。その意気です。ノルウェーからもどんどん買ってあげてください。また漁業国アイスランドは初めてオフショーオイルの権益入札をはじめた。2月にIMFの査定を受け、政策金利の引き下げが話し合われる。悪い材料ばかりではない。(了) 余談:タイトルの「暗い春」はヘンリー・ミラーの短い小説から充てました。昔、吉田健一(麻生首相の叔父さん)の訳を対照して古本屋で見つけた英文海賊版を読んだことがある。H.ミラーの和訳はこれが本邦初訳で、後に大久保康夫訳の全集がでましたが、対照してバッチリ直訳といえるほどしかも良い日本語文章の訳は他に知らない。目をひらかれるおもいでした。いまでは古臭いと顧みられないのでしょうか。
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