安達正興のハード@コラム
Masaoki Adachi/安達正興


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ムンバイテロと悠久のインド
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〈 2008年 11月 29日 土曜日 )


● 情けないインドの治安軍
ムンバイのイスラム武装派による連続テロは、3日目をすぎて土曜日の朝、まだタジマハル・ホテルに犯人が残っている。インドの警察と治安軍のレベルはあってはならないほど低い。事件の推移を漸次当局が発表し、記者会見に応じるという当たり前のことがまったく行われなかった。軍の司令官らしい人物が、記者に囲まれて後数時間ですべて解決する・・と話したのが唯一公的談話だった。で、数時間はおろか翌日まだ犯人が一人または複数Tajiホテルに立て篭っている。報道はすべてジャーナリストが逃げた客や病院その他から取材した情報である。

もうひとつ焦れったいのはイギリスTVに出てくるインド人たちのコメントだ。ロンドンのインド系は植民地時代からの長い歴史があり、各界で活躍しまた富裕層も多い。自慢はテロリストにヒンズー印度人が皆無であること。ホテルに滞在していたインド人の悉くは在英インド系の里帰りである。

インド人学者やジャーナリストのTVコメントですが、あまりにも哲学的で知りたいこと…犯人グループは、狙いは、治安軍のテロ対策や指揮系統など、明確に答えてくれない。英米人を標的にするならなぜ映画館や鉄道駅を攻撃するのか、ロビーで乱射すればどこの国籍にかかわらず運の悪い人が倒れる。ムンバイ南部の高級スポットを無差別に攻撃したのであり、攻撃されたユダヤ系が住むアパート(ナリマン・ハウス)は反イスラエルよりむしろムンバイの異物的裕福層が理由でとおもう。実際、事件が終息した時点で200人近い犠牲者のうち90%は地元のインド人、外国人は多くても25人である。(ホテル内の宿泊人捜索・死体搬出がおわれば若干増える)

●災害とインド哲学
インドでは洪水、台風、飢餓など自然災害で人口が減るほどを経てきた。運命に従順な民であり、人々は悠久の歴史とともにある・・風に見える。100年前までならそれでよかった。我が国でも良寛和尚は三条地震に遭遇した知人への手紙に『地震にあうときは地震にあうが良く候、死ぬるときは死ぬるが良く候』と書きおくった。当時は無駄な抗らいをせず、運命に従うという諦念が精神的に最良の対処法であった。また薬師寺管長橋本疑胤(ぎょういん)という傑僧はもう45年くらい前であろうか、インド飢饉のとき募金や救援物資を送ろうという運動に『必要ない、インドでは飢饉や自然災害のたびに人口が調整されており自然の摂理である。インドにはインドの歴史と生き方がある』と。驚天動地!恐怖の真理!このショックは一生忘れられない。

いまでも地震予知は不可能だが被害を最小に食い止める多様な防災手段で対抗できる時代になった。もはや良寛の思想、疑胤の仏教哲学は歴史の一エピソードである。現代のインドはコンピューター技術、TATA自動車など目覚ましい発展ぶりだが、インドの平均的精神はヒンズーの諦念が浸透していて、それが知識で処理できる以外の分野、簡単に言えば交通インフラ、上下水道、住民登録、教育制度の発展を妨げてきた。特殊部隊があっても指揮戦略がない。今回のテロでは警察および遅れて配置された治安軍のテロ対応が無策であることを露呈した。なにしろ連続5カ所での実行犯が計何人いたかわからず、占拠ホテルから逃げ出した犯人もいる。目も当てられない失態だ。

●お決まりのイスラム聖戦テロ
ネットで犯行グループを名乗ったデカン・ムジャヘディン(聖戦士)は初めての名前。デカンとはデカン高原のことであり、インド国土を象徴する地名、なんと名乗ろうが特に意味はないが、良く訓練されたプロ集団にちがいない。ま、それはいいとして、シン首相が名指し同然に「パキスタンを拠点にする反政府イスラム組織の犯行」と発言、100%そうだろうとおもう。これまでコラムにしたインド議会襲撃事件や満員通勤電車を狙った爆破事件もパキスタンを拠点にするインドのイスラム武装派による仕業だった。印パ紛争はカシミールから南部に散発テロの形で移動したといえる。インドのイスラム教徒は10%といわれ、差別され迫害されているというのがテロリストの常套句である。今回もオベロイホテルを占拠した犯人がケイタイで同様の旨答えていた。

さて、パキスタン政府は根拠のない言いがかりと反撥、核を保有する両国が不要な睨みあいをする結果を招いた。不要なというのは、パキスタンでもタリバンに近いイスラム原理派がイスラマバードのマリオットホテルを爆破し、アフガニスタンでもカブールのインド大使館が襲撃されている。ムシャラフが修復した印パ関係を崩してはならない。

人口が多く、商業金融貿易の都市ムンバイは警備体制が甘くテロリストにとって格好の目標である。この地への投資は減る。観光客もガタへりする。それがテロの目標といえ、ムンバイ市民のシャカリキを望む。(了)



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