安達正興のハード@コラム
Masaoki Adachi/安達正興


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続、招かざる大統領ザルダリ
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〈 2008年 9月 12日 金曜日 )


●行きはよいよい帰りは怖い
パキスタン国軍はブット派とシャリフ派のどちらにも不信感が大きい。それをザルダリは闊達な予算と物資供給を約束していとも簡単に軍を味方につけた。独自の金づるがない軍は予算を付けてくれる政権になびく、戦国武将は報碌の多い大名につく。実に単純明快。しかしわかりきったことだが、対米追従と国内イスラ過激グループへの攻撃は国民の大反発を招く。ザルダリと将軍たちのあいだに齟齬が生じるのはあきらか。

また米軍がアフガニスタンとパキスタンを対テロの最前線に位置づけ、ワジリスタンの部族地域が主戦場になる。自国領土が外国軍に蹂躙されて黙っている国民はいない。でもこういうなりゆきを見越して軍を取り込んだのでしょう。国民のザルダリ突き上げにどんな悪知恵が出るか、つつ興味がわきます。だがどう考えても一時逃れの米批判で逃げられるイッシューではない。行きはよいよい帰りは怖い、来年まで政権が維持できるか危なっかしい。

●マドラサを引きずる法曹界
一方、軍は部族地帯に駐留することに消極的で、過激テロの温床であるマドラサ(神学校)は腫れ物にさわるように慎重だ。すこしマドラサについて誤解のないように注記しますと、神学校と訳されるがキリスト教国の神学校や新学部とはまったくちがう。だだっ広い部屋にあぐらをかいた子供たちが体を前後に揺すってリズムをとりながらコーランを復唱する。寺の小坊主が正座して声明を合わせ読経するやり方ではなく名々勝手に読み上げ丸暗記する。そのほか校長や教育スタッフの聖職者が森羅万象を説き、イスラム法に逸脱した社会を批判しジハード聖戦を吹き込む。読み書きそろばんを習う寺小屋ははるかに教育の場であった。マドラサは民間のお布施で運営されるが、資格証書は政府が発行し、ちゃんとした学歴になる。パキスタンで勢力をもつ法曹界はこのマドラサでコーラン(イスラム法)を習い覚えてから近代法学を学んだ者が多く、シャリアの根を持つロウヤーが少なくない。憲法を都合良く改変したムシャラフに対峙した法律家が多かったため、パキスタンの司法界は正義の組織とおもわれているが、権勢におもねる法律家が一般的だ。

●独特なパキスタンの大統領宣誓式
大統領宣誓式を司法式した最高判事長は、ムシャラフに解任されたチョウドリ前判事長にかわって任命された。ザルダリはムシャラフが入れ替えた判事たちをそのままにする意向である。イエスマンだからです。ムシャラフが任命したギラニ首相もカイアニ司令官も入れ替えずに継続させる。ムシャラフ免責を質にカイアニとギラニの協力を得て政権移行をスムースにする知恵である。すなわち選挙で協力し連立政権を作った相棒、シャリフを裏切った。

連立を離脱したシャリフは宣誓式の前日ザルダリと会談し、連立に戻りはしないが、なんとザルダリ政権を今後支持してゆくとムッツり話した。議会運営が心配なザルダリに泣きつかれて、恩を売ったわけだが、この人は骨の髄までタヌキだな。翌日のザルダリ大統領宣誓と就任式には出席せず、ロンドンに入院中のご母堂を見舞いにいった、出席してもしなくても不具合な状況でうまい口実だ。大統領の宣誓式なんて甲子園の選手宣誓くらいに短くてよいのに、長ったらしいスピーチのもあるのですね。判事長が読む後からザルダリが再読する。それが英語だぞ。最後にSo help me God, Amenと誓う。面食らいました。前列にカルザイが座っていたほかは、外国の著名代表の姿はない。招かざる大統領に駆けつけるのはマズイもの。

●最悪デュオのましな方
ザルダリ新大統領は議員投票で3分の2を得たが、国民支持率は20%台である。シャリフはもっと低い。おもうにムシャラフ復讐に燃えるシャリフが大統領になって弾劾にうつつをぬかすよりも、ザルダリのほうがましで西側は安堵した。米には使い道のある、ムシャラフより圧力が利く相手である。


●ザルダリ、蛙飛びの術
上の風刺マンガ『08年選挙の後遺症』は2-3日前パキスタン・ニューズから拝借しました。ザルダリが大統領になるため踏み台にしたイッシューと避けたイッシューを示している。シャリフとの連立から、ムシャラフが作った自身の免責条項、大統領権限などを含む。関わりを避けたイッシューが後遺症となる大問題。司法イッシューは解任判事の復職とそれに伴う自身への訴追の件です。憲法改正パッケージはザルダリの人民党が作成したムシャラフが改正した条項への改正、議会解散や首相解任件の廃止など、一見前向きではあるが、ムシャラフが大きくした大統領権限は殆ど縮小していない。大統領職をシンボル職に戻すシャリフの意見に同調してできた連立だが、自分が大統領にいけそうになると大権を相続するチャッカリ悪知恵のはたらくザルダリ。

一つ加えると、パキスタンの電力不足は深刻で、書中停電する。一人当たりの消費量は先進国に比べ微々たるものだが、人口1億8千万人もいる。人口は増える一方で、失業率は年々増加しています。(了)



Pnorama Box制作委員会

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