安達正興のハード@コラム
Masaoki Adachi/安達正興


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ブッシュ最後の一般教書
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〈 2008年 1月 30日 水曜日 )


●ブッシュはレイムダックじゃない
今年も米大頭領の一般教書をライブでつきあう。後1年を残すブッシュ最後の教書は可もなし不可もなし、拍手による中断が70回、そのうち50回は民主党席ムッツリ。議場がワーンとこだまする万雷の拍手もないが、そのかわり前回のような民主党のブーイングもなかった。さりながら残す一年の舵取りはブッシュであることを印象づけました。レイムダックだなんてとんでもない。

まずテーマを経済からはじめたのですが、短期的な景気スロウダウンを認めたうえで、先に超党派的に合意した景気刺激策の早期通過を両院に催促した。この部分は先週金曜日にWHで演説した文面と代わらない。delay or derailのシャレをつかって「そんな事は出来ない」で議場から笑みと拍手。(景気刺激策の内容は26日のコラム参照)。

この払い戻し税Tax rebateを中心とした15000億ドルパッケージは当初この教書で発表するてはずでしたが、世界株同時時暴落に緊急対処するため前倒ししたので、ほかに新しい景気対策はない。Fedが木曜日に2.25%切り下げるかどうか、示唆はなかった。「7年継続してきた減税措置を今下院が行動しなければ廃案になる……減税を恒久化しよう」。と言った所で共和党からも起立喝采がおこる。次期大統領はちょっとやりづらいんじゃない。

●拒否権がつかいやすい最後の年
歳出削減のため「耳札」earmarks予算には半数を拒否権で送り返す(共和党拍手)と念をおす。この用途指定された耳札予算は別名「ペット予算」とよばれ、両党の議員が地元の事業にぶんどる政府予算である。個々の予算は少なくても合算すれば巨額になり財政を圧迫する。ブッシュに言わせれば半数が公益のないムダ使いだが、これまで黙認してきたのは一面、議員の心証を悪くしたくなかった故だろう。1年前の年1月17日にこんなコラムがありました。>予算外に特別会計があり、災害支援や文化事業、さまざまな一事しのぎの政策に用途を定めたイアマークつきの支出がある。これは委員会にまかされ、議会の承認が不要、90%は大統領の署名なしに通過する。この支出がどんどん膨らんで13000件、180億ドル……<

いまのブッシュは残る任期だ、好きにやるさ、てなぐあいに副大統領を後任に推薦しなくてもよいし、支持してくれと頼む与党候補者もいない、今年はなにげに拒否権をちらつかせることができるという米大統領では珍しい立ち場にある。

●つつましくビジネスライクに
スピーチ全体のトーンは意外に「つつましやか」で現実的である。一年前ベーカー・ハミルトン報告を蹴ってイラクへ増派。この戦略はペトレイアすが描いたイメージ(レポートCounterinsergency, 07念1月21日コラム)通り的中したが、イラクの成果をことさら誇示せず、イランの脅威を煽ることもなかった。中東8日間の旅をもとに、イラク、パレスチナ評価ではをアルカイダは敗走という箇所もあったが、前日にイラク武装派の待ち伏せで米兵5人が死亡している後ろめたさはある。イスラエルとパレスチナ国家の年内両立は現在ガザ地区があの状態ではむなしい。

北朝鮮について一語も触れていない。もちろんテロ国家やならず者国家の言葉もない。02年の教書で名指ししたこれら悪の枢軸3国の総括があってよさそうだが、ブッシュはかわりましたね。

●減った言葉、自由とデモクラシー
かわったといえば、「デモクラシーDemocracy」は4度「自由freedom」は10回、「自由liberty」は8回と大幅に減少、それも宣布の文脈ではない。啓発的言辞は結びにわずか、ここはライターが良く推敲した品格のあるできばえ。

●オバマ、ヒラリー、ペロシの各コメント
その他、今回は傍聴席に招待されたヒーローたちの紹介がなかった。演説に沿ってその時にカメラで映し出すのみ。このほうがよい。オバマはテッド・ケネディ御大と並んで座り、イチャツクさまはわたしには醜悪でした。オバマはこの年頭教書を吐いて棄てるように「空虚なレトリックに満ちたスピーチ、誤った政治で過去のポリシー」と非難した由。おどろいたな、公平な判断力じゃないと思う。演説直後にはブッシュの差し出す手に笑顔で握手しておきながら。

ヒラリーは戦線離脱したジョー・バイデンと並んで座り、概ねムッツリしていましたが批判をするにも「いつもと同じ間違ったポリシーにフラストの募る言い方」と、本人の判定であって感情的ではない。TV映像にはなかったが、ヒラリーがテッドと握手した時、オバマはそっぽを向いたという。

昨年より冷ややかな表情が多かった議長席のペロシは、ブッシュのイラク評価(わたしには慎ましいとおもえる)に厳しい批判を展開、「戦争から5年もたってから成功だなんて理解しかねます」。"And again, I'll say what [Gen. David H. Petraeus] said. The biggest obstacle to reconciliation in Iraq is not the Sunni insurgents. It's not the Iranian militants. It's not the al Qaeda terrorists. It is the government of Iraq," she said. "Our troops have made an enormous sacrifice. They deserve better than the actions taken by the Iraqi government." (WP紙29日) 大筋その通りとおもう。

さて、ブッシュ最後の年頭教書を各紙はどう見ているのか、私感ですがNYタイムズはシニカル、ヘラトリは批判的、ウォールストリートJ.は中立。好意的なハズのUSワールドですらまあまあでした。わたしの印象はわるくない。ブッシュは現在支持率30%と最低にありながらよくできたとおもう。米の大統領が健在であることは世界の安定につながります。

●英語の勉強FreedomとLiberty:
語源はそれぞれ古い英語とラテン語で、どちらも自由と訳す。意味合いに時代的変遷があるそうですが、今日の文章作法ではFreedomは一般的な自由、愛国的でキャンペーンに使われ、自由と正義というときは必ずFreedom and Justice となる。Libertyは静的で法的なシステム、秩序に立脚する。ホホウ、映画と同名の歌The man who shot Liberty Valanceを思い出しました。年配者なら次のリフレインが歌えるでしょう。
The man who shot Liberty Valance
He shot Liberty Valance
He was the bravest of them all。



Pnorama Box制作委員会

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