●中東7カ国、一週間の旅
現役アメリカ大統領が8日間も旅行するのはひじょうに珍しい。一挙手一動に世人の注目があってしかるべきではないか!。まあ、リキんでみてもはじまらない。米国内は予備選が面白くて、ブッシュがどこで何をしようとカンケイない。エアフォース・ワンと輸送機、護衛機の大所帯、ライス長官を従えて時間と莫大な費用をかけたアラブ歴訪の成果は「雀のナミダ」ほどでした。
ブッシュは大統領就任7年目、イラク戦争を仕掛けたから5年になろうとしているが中東訪問はこれが初めてである。イラクへは何度か電撃訪問を行ったが外交的な意味はなく、イスラエルさえ初めてである。任期中に一度はアラブの盟主サウジとエジプトを訪問するのが米大統領の慣わしになっており、親睦・表敬程度でサっと逃げ帰る。
●2008年は中東の年と位置づけたブッシュだが
ところが、ブッシュは2008年を中東決着の年にしたい意欲があって、ブッシュ任期の年内ににイスラエルとパレスチナ2国並立を樹立、イラクの治安安定と米兵帰還開始、イランの脅威を宣伝し封じこめと孤立化を図る、アフガンのタリバン追討、などの課題に決着をつけたいため、アラブの首長たちの協力を取り付ける実質的な狙いがあって、長期の歴訪となった。
いかんせん、相手は一向に真剣になってくれない。アラブがアメリカの云う事に真剣になったことがあるか、ないでしょう。それなのにブッシュはナイーブ、そこがまたわたしにはブッシュらしい魅力なのですが、世間一般には嫌われる。
●置き去りにされたハマスの反撃
順序を追ってわが印象は、まず9日イスラエル入りしてオルメトと中東ロードマップを互いにヤル意気込みを示した。ブッシュはヴィジョンの人ともてはやされた。これが成果雀の一雫である。ただWHで二人が約束したすぐ後で、オルメトは約束を破って西岸に入植住宅100戸建設を開始。そのせいかアッバスの対応はオザナリだった。しかもハマスの反撥は火に油を注いだように燃え上がり、ブッシュが11日クウェートに移ってからガザ国境からイスラエルへ向けてロケット攻撃が激しくなった。ハマスの使うロケットはもう手製のカッサムではなく、距離が伸び弾道も正確なシロモノである。イスラエルは戦車まで出して猛烈に報復空爆を決行。たちまち死者類類である。ハマス武装派リーダー(元連立政権の外相)の息子が殺されたのでちょっとやそっとでは収まるまい。「雀のナミダ」はカラカラに乾き、ブッシュ訪問は和平促進のマイナスになった。
●ドルを助けるオイルリッチの湾岸小国
オイルリッチの湾岸小国クウエートUAEでは主に傾いた米金融界への資金投入にお礼を述べ、凋落するドル通貨を律儀に守ってくれていることに感謝する。アブダビでここは小国だからでしょうか、やっと自由と民主主義の演説をブチました。だけど地元メディアには「また押し付けやがる」と評判悪い。クウェートではイラク後方部隊の米兵と食堂で同じ釜のメシを食ったり、ペトレイアスからイラク情勢聞いてバース党員の一部公務員復帰法案可決という良いニュースを聴き、記者会見で嬉しさがでていました。最初にバース党員追放を決めたのはブッシュ、てめえだろうなんて無粋な事は言わない。シーアとスンニが抗争を止めるなら治安はみるまによくなるだろう。
余談ですが、シーア・民兵組織のサドル派が武力闘争を停止して半年になります。イラク情勢はまたの機会に取り上げることにして、湾岸のオイルリッチ国をブッシュは初めて眼でみて驚嘆したらしい。こりゃどういうことか、唖然とした様子が随行記者から伝えられている。林立する高層ビルは新品のうえに贅を凝らした造りである。海を埋め立てた広大な住宅区、広い高速道路、すべてにゆとりがある。
●アラブ人の人種差別
クウェートでブッシュはさりげなく「クェート人を見ないね」と感想を漏らしている。ドバイ、バレーン、アブダビでも下働きはみなイラン、インドから東のアジア系出稼ぎ労働者である。湾岸国では何年働いて住んでいようと外国人には国籍が与えられず、現地人が享受している教育・医療の無料制度がうけられない。現地人ならバカでも破格の給料を得て家政婦さんを雇っているが、このあたりの事情・市民権に抗議するのは米政府としても重荷である。人権活動家に任すしかない。
サウジには3日も滞在、イランに届く短距離ミサイルなどの武器を1億2300万ドル売る。湾岸全域で2億ドルの武器を売ることになっており、イラン包囲網を構築するつもり。とはいえ、サウジはイランと良好な関係で、王家とアフマディネジャドの関係は王家とブッシュ家との関係より親密、メッカ巡礼もお膳立てしてもらった。
サウジへの武器売却は米が供与しているイスラエルの装備に対抗するために他ならない。サルコジはブッシュがサウジに入る前に来てエアバス数台をを契約し、ブッシュがUAEに入る直前にサルコジが来て原発施設を受注している。先に再婚相手とエジプトで遊んでムバラクとも会って例の地中海構想を説いている。小回りのきくサルコジにブッシュは翻弄されているのではないか。
●ブッシュを見限ったムバラク
16日、最後のエジプトは避暑地のシャルム・エルシェイクでムバラクと会談。ここは警備がしやすいとのことで首脳会談の会場に多用されている。それでも異常な警備体制が敷かれ、国民との接触は皆無である。共同記者会見でブッシュはやんわりと自由な社会と民主化をその国それぞれのやり方で発展できると話していたが、エジプトのメディアは取り上げていない。またイスラエルに封鎖されたガザ地区に日常用品から武器まで流れ込んでいるのはエジプトから数本の整備されたトンネルを遠て輸送される。このトンネル閉鎖が米の関心事だが、議題になったのかすら報道されなかった。ムバラクは取り合わないにきまっている。
ムスリム社会に洋習を持ち込む事はさように難しい。サウジでは女性の随行員や記者に肌を露出しないよう然るべき服装を求められ、一般市民に自由な政治的インタビューは不可能である。この面で中国はより大きな自由がある。西側リーダーが北京の大学で講演したり、教会に参列することが、仮に演出されたものであっても、できることは前進だ。
●ブッシュ・アメリカの無力を知る
詳細しませんがブッシュは、エルサレムでスター気取りで歌う少女の歓迎に辟易、リアドではアラブの蛮刀を手にプリンスと体を合わて身を揺するダンスにつき合わされてウンザリ、ほんとに気の毒でした。思うに、ブッシュはアラブ歴訪を通じて非力を嘆くよりも、自分の無力とアメリカの限界を体験したのではないだろうか。まこと尻すぼみになった8日間でした。私の印象ではブッシュさんは金輪際2度とあの地へ行かないだろう。
さて、ブッシュは帰ってから旅の成果を話すこともなく、何事もなかったようにテーマは景気刺激策に移りました。そして本日はネバダ予備選の投票日、野次馬を楽しみます。(了)