安達正興のハード@コラム
Masaoki Adachi/安達正興


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ブット三世と父の関係
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〈 2008年 1月 5日 土曜日 )


パキスタンはいま火が消えたように静かである。ベナジール・ブット暗殺のあと、政府が喪中とした3日間は、商店襲撃、略奪、放火など、特にブットの地元で激しかったが、それも3日で落ち着きを取り戻した。暴徒はニュースバリューがあるので大きく報じられるが、実際は全く影響なくて警察が日常と変わらない大小の都市のほうが多いことを知ってもらいたい。

さて、国会と地方の総選挙が予定の1月8日から2月18日にひと月以上も延期。野党の地域で投票所が襲撃され、延期は仕方がないとしても6週間は長過ぎやしないか。選管事務所は全国で114カ所、そのうちの11カ所が破壊されたにすぎない。いろいろな変化を読んだ上で長期の延期をムシャラフが押し切った。そのてんやわんやの経緯を知れば、パキスタンの内政事情が見えてくる。

●選挙中止・延期・日程堅持へ意見を変えた野党
ブットの「人民党」PPPはシンボルを失った危機感から選挙の延期を画策、党は40日の服喪を宣言した。ところが暴徒たちの襲撃先政府関係の地方事務所、公的な場所の破壊が多くそのスローガンは反政府、反ムシャラフ一色である。ぶっと殺害はムシャラフの指示というわけ。事件をきっかけに暴動がおこると必ず国家リーダーが悪者にされる。

PPP側は同情票が得られる形勢にあわてて前言を翻し、選挙を予定通り行うべきといきまき、「選挙は無効、ムシャラフ即時辞任」を要求していたナワズ・シャリフのPML-N党も選挙日程堅持に豹変、参加を決めた。なんともはやこれがパキスタンの野党政界の言動、ウソつきはいつもムシャラフにされでしまう。

●後継ブット三世が決るまで
暗殺されたブットの後継者探しが、結局19才の三男ビルワラに決ままった。物故したブットが後継に夫の名を記した書類は、暗殺のその日から夫のアシフ・ザルダイが「遺書」があるとして触れている。この夫は暗殺された車の後部に立っていた二人の一人であるが、ブットが撃たれたその瞬間を見ていない。映像では銃声に思わずダックているのです。

生前から故ブットは亭主のことを「パキスタンのマンデラ」と褒めそやし後を頼む人と公言していた。汚職蓄財で11年だか刑務所にはいっていた経歴から臆面もなく亭主をマンデラになぞらえた。同罪の故ブット首相は裁判を受けずにドバイに国外追放され、亭主には大きな借りがある。それでずっと夫妻は別居生活だが、必要に応じて夫を引き立ててあげるのだろう。

だが、国民にも党にも人気のないこの人を後継にすることはPPP指導部の理解がえられず、まともに考慮されていなかった。このことはアシフにもよくわかっていて、本人は表にです、ブットの血を後継者に据える案で党議がまとまった。候補はロンドンにいる娘と、PPPの幹部で政治歴豊富な親戚筋の女性でが挙げられた。が、娘は二人の若い子供がいて断わり、カリスマ性のない幹部女性では選挙を戦えないのでダメ。残るはひとり19才のビラワリしかいない。議員に立候補できない年である。

ビルワリは三男だが、長男は政治家、知事時代に暗殺されこのとき父のアシフが関与した疑いで逮捕されている。次男はパリで変死。両事件とも迷宮入りである。兄二人が死んだため、ビルワリが長男ということで正統をつぐことになった。性はザルダイだが、氏名改称して今後はビルワル・ブット。こうしてブット三世が決まった。

ビルワリ後継者発表の記者会見でビルワリの向かって左に父のアシフ・ザルダリ、左に副党首で8年間ブットの追放中、留守を預かってきた副党首のファヒム。その隣で記者の質問を仕切った女性がブットの姪だか親戚筋の女性である。

●アシフとビルワリ父子の切れた関係
ビルワリはごく短い後継受諾を読み上げただけで、まるでお人形である。最後、唐突に声を張り上げ『母はいつも民主主義がベストのリベンジ、だと言いました』とキっとしたところに何かしら父への反抗が読み取れた。オックスフォードの初年生、卒業まで歴史の勉強に専念するとかで、まともにオックスフォードの学業を終えるとなると政界入りは6年先のことだ。

それまで父アシフ・ザルダイが後見人として君臨し、副党首に就任する。息子が記者の質問に『(学業を終えて)帰ってきたときは母が望んだようにこの国を導きます』と言い出しただけで遮り、応答を禁じてしまった。ビルワリは10代からドバイとロンドンを往復して主に母と育った。彼はイギリス英語を話し、パキスタン人の英語と一線を画する。それでもいいのだろうか。

さて、ファヒムは裏方でとおしてきたおとなしい人物。あまり欲のなさそうな目立たない眼鏡の長老は、福田さんの感じがしないでもない。選挙では人民党が第一党に躍り出る可能性がある。その時に首相に推されるのはファヒムしかいない。ザルダリもそれは認めている。

長くなるので今日はここでストップします。(了)



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