● クルドの拠点は僻村の民家
イラク北部国境にはPKK(クルド労働者党、トルコでのクルド人分離を要求して武力闘争)の隠れ拠点がある。その数カ所をトルコ空軍が日曜日夜明けまえに空爆。拠点とか前哨基地と報道されるが、山地の僻村に農牧民と一緒に住んでいるで。空爆の結果はトルコ政府の成果、イラク政府の談話、PKKの発表した被害数(にはそれぞれ隔たりがあるが、子供を含む民間人に被害が出たのは疑いない。
イラク側のPKKメンバーは約1000人といわれる。10月中頃にトルコ国会がイラク内のPKKに越境攻撃を可決して以来、空軍の越境波状攻撃は何度かあったが、これほどの大規模空爆ははじめてだ。しかしながらその数が空々しいほど少ない。死者は最多で5人。いっぺんで100人近い死者が出るカーボンブにくらべ、戦闘機50を3時間ばかり夜陰にまぎれて飛ばしておきながらその意味は何か?
●戦果より見てくれのショウ
ショウである。夜、灯りの村に赤いミサイルの噴射光が飛び交う映像をトルコのTVがショウ効果満点に見せている。破壊すべきインフラもない拠点をミサイルで攻撃したって見合う成果はえられないが、それでよい。ここで100人200人の犠牲者が出てはアメリカ・イラクが見過ごせなくなり、トルコ政府は評判を落とす、三すくみになってしまいます。
トルコ首相のエルドガンはこの戦力を誇示した空爆成功を祝う演説をおこない、国民の欲求不満にこたえた手応えを感じたようだ。国境に10万の陸・空軍を配していながら戦車の越境は数キロ以内、あまり華々しい成果をあげていなかったので、そろそろ実地にそれもハデに見せなければならない、そんな状況だったことがわかる。
●良識報道はカマトト
16日の空爆についてトルコの参謀が「イラク駐留米軍の暗黙の了解のもとに行なった」と発言。10月のコラムでトルコの越境攻撃はアメリカとイラクのお墨付きを得た、と書いたことがいまやっと報道で証明されたというか、良識報道はカマトトですね。
米はPKKの拠点情報を順次トルコに提供し、トルコ戦闘機の越境空爆にあたっては米空軍が黙って当該領空をオープンし、決してスクランブルなどかけない。またイラク側へおこなった直前通告は、今回の空爆を終えればしばらく休みます……みたいな内容もはいっていたと、セバリ外相の穏やかな非難ぶりから推察した。実際、トルコ国内でのPKKテロはバッタリ止んでいることもあり、このような大規模空爆は2度とないだろう。(了)
参照:コラム「切り捨てられたトルコのクルド人」2007年10月25日