安達正興のハード@コラム
Masaoki Adachi/安達正興


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アルメニア人の怨念
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〈 2007年 10月 11日 木曜日 )


●米下院外交委員会27-21で採択
米下院議会は国益を考えず、世界もろもろの現象に審判をくだす。米政府が困ろうが,断をくだされた国の反撥がヒステリックになろうと、おかまいなしに裁決する。慰安婦問題で日本は謝罪しろ、と対日非難決議をしたあの下院議会である。こういう政府決議ではなく拘束力のない議員さんたちの正義ぶった決議はゴマンとあるが、最近では中国の人権だったかなんだかに引っ掛けて「北京オリンピック・ボイコット決議」がありました。慰安婦問題対日非難には数日後に、旗ふりのマイク・ホンダ議員も加わってご愛嬌にテロ対策への対日感謝決議があり、バランスとったつもりでいる。

●オットマン・トルコ帝国の戦史
10日、下院外交委員会は27−21票、わずかの差で第一次世界大戦中のトルコによるアルメニア人殺戮を「虐殺」とする決議案が通過した。第一次大戦は90年前だぞ。なぜいまさら、歴史学会でもない米下院外交委員会が口出しするのか、さような議論は歴史科に委ねておけ、という疑問はある。この決議がダルフールの解決、またミャンマー非難に有効に作用すると賛成に投じた議員がいたが、苦しい弁明だ。

西洋史的には150万人のアルメニア人が、オットマン・トルコに殺されたとされる。日本軍による上海の中国側主張の5倍もある。これを公式に「虐殺」と認定するのにいかほどの意義があるか、もちろんアルメニア系米人(提案者アダム・シフ議員)にとっては切実な問題だとしても、議会で決めるべきテーマだろうか、疑問。

●非難決議に反応するお国柄
慰安婦問題のとき、日本人がちょっとテンスになったように今回のアルメニア人虐殺ではトルコが緊迫した。おもうに、今日のトルコは90年前のオットマン帝国の続きではない。その辺を理解して、トルコ人は気にせず鷹揚に構えていればよいのだが、いま、トルコでは国中が激怒しているだろうな。その点、日本人は不愉快でも一文にもならない歴史問題よりビジネス・商いに精を出して忘れてしまう。最も気楽なのはドイツ人、ナチは我々のドイツではないと開き直って聞き流す。

エルドガン首相は歴史調査委員会を提案し、採択はトルコ・米関係を損なうと警告もし、ガル大統領がブッシュに書簡を送った。ブッシュも下院に思いとどまるよう議会で演説した。またライス、ゲイツ、ペトレイアスなどブッシュの中東関係スタッフが総出で「裁決は中東政策をブチ壊す」と反対した。しかし民主も共和も我が道を行く外交員会の議員さんたちには馬の耳に念仏でありました。。

●米-トルコ関係にヒビ
ブチ壊す兆候はすでに現われていて、トルコ軍の戦車がクルド分離主義者を攻撃するためイラク北部国境に集結している。トルコを怒らせてしまった米は、イラクで唯一平和なクルド自治区で紛争の種をおおきくした。米がイラクへの補給や戦闘機を飛ばす基地はトルコにある。ここからイラク米軍への補給物資70%が輸送されている。「出て行ってくれ」となれば、エライ事になります。パキスタンは使えないし、サウジも怪しくエジプトがダメ。トルコに勝る代替地はないのです。

ペロシ議長が下院本会議にこの決議案をかけるには至らない。実は2年前にも同じような決議が委員会で採択されたが、本会議に回らなかった。実は昨年フランス国会が同じようなトルコのアルメニア人虐殺非難決議を行ったところ、トルコ側は二国間契約の破棄や軍事協力停止などの対抗措置をとった。一方フランスではトルコのEU加盟反対が大多数に膨れ上がった。世界中でアルメニア系住民が熱心に運動しているが、戦争・虐殺の被害者は己の歴史認識を全世界に認めさせ、加害国を求める傾向がある。(了)



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