●ガザのハマス軍事クーデター
パレスチナ、ファタとハマスの抗争は、3日前のコラムで先読みした線で経過した。ガザの方は捕虜を免れたファタ派が木曜の夜に「城」をおっ放り出してガザから逃げ出し、ハマスの軍事クーデターが成就した。「城」と喩えたのはガザにあるファタ治安部隊の本部でアッバス大統領のガザ事務所がある建物です。
ガザ地区はイスラエルが出口を監理しているカンヅメ地区なのですが、はて、イスラエル側が出してあげたのか、エジプト側へ逃げたかのか情報がない。しかしなぜハマスが執拗にファタ主流のパレスチナ治安部隊と衝突を繰り返したか、それがわかるとイスラエルが逃がしたと推察できる。
新政府発足に際し、アッバスは治安の責任者である内務相にも中立の民間人起用すると思われていたのが、ファタ・ミリタントのボスであったダハリン(Mohammed Dahlin)が就任した。ハマス武装派の疑心は、ダハリンが米とイスラエルから武器支援を受けてファタ武装派を壊滅する。このままではジリヒンという切羽詰まった状況にあった。彼らにはアッバスとハニエの停戦合意など意味をなさない。陥落、焼き打ちされたファタ本部の地下室から、100丁のカラシニコフに混じってイスラエル車のナンバープレートや砲弾が見つかっている。
●西岸のファタ政治クーデター
西岸では見つかって殺されたハマス派もいるが、ガザの仇うちをおそれたハマスの組織が戦闘を放棄したので、大きな紛争にならない。こちらは新首相任命という政治的クーデターである。アッバス側は金曜日、素早くハニエ首相を解任し、新首相に民間の国際金融マンである財務相のファイヤード(Salam Fayyad)を起用、西側から経済支援を我が方にという狙いがミエミエです。アッバスはこのファイアードと外相のアブアムルを中立の民間から西側支援の招き猫として重要ポストに配し、この3人が新政府のカオとなる。
ここで一気に他の閣僚も更迭する腹づもりだったアッバスだが、発表の時がきても音沙汰なし。どこいらから待ったがかかったのか、自分で思い直したのか、あるいはハマスの亡命リーダーであるマシャールの仲介やハニエがオウムのように和解を呼びかけているのを考慮したのか、アッバスも約束を平気で破る人でありますな。
●悪化するガザ市民生活
ハニエはハマスの全面バックアップを受けて、自分が最大与党の首相であり任務を継続すると主張したはいいが、大統領が首相の首をすげ替えるのは民主主義のワク内で合憲ですから、米はじめ欧州、日本からの支援はすべてファタ派のアッバスへ向かう。ガザへはびた一文行きません。ま、ラマラにいるハマスの閣僚や国会議員へは渡るでしょうが、ガザ地区への援助派ないとおもえ。当地のノルウェーですら財政支援はアッバスへ、ガザへは落ち着いたら赤十字を戻す程度です。
ではガザ地区を制圧したハマスは先立つお金がなくて統治できるか、そもそも銃撃とロケット砲の交戦しか経験のないミリタントに政策などありゃしない。経済援助をしてきたサウジやエジプトもアッバスと手を切ったハマスにはこれまで通りというわけにはいくまい。さてハマスはこの難関をどう突破するか。答えは『軟化』。拉致された英人ジャーナリストのアラン・ジョンストン氏を直ちに釈放すると表明したのを皮切りに、拘束したファタの議員さんやリーダー釈放、ファタメンバーの住宅を略奪する市民への警告、法と秩序の回復などを訴えた。でもね、それでもとへ戻ろうたってそりゃ聞いてもらえませんよ。(了)
追記、ブッシュはワシントンで19日にイスラエルのオルメト首相と、7月1日にはプーチンと会談。パレスチナ支援策が話し合われる。