今年のベルゲン音楽祭は既に終わり、この一週間は異常なまでの暑い無風快晴がつづいています。ありがたがいけれどちょっぴり気候温暖化を憂う気持もある。ニーナさんを悪妻にしたててよいのか、ちょっぴり呵責もある。
●ニーナの悪評に名誉回復の書簡
ニーナさんが料理上手で良き主婦であると讃えた人物がひとりいたことを書き添えておこう。夫グリーグの没後26年、91歳まで長生きしたニーナさんが晩年の頃、カール・ニールセン(1865〜1931)が客人としてトロルハウゲンに滞在中、次のような手紙を妻に送った。
『ニーナ・グリーグと彼女の妹トニーからくれぐれもよろしく伝えてくださいとの由。小さな二人がどんなに可愛くて良い人かきみには創造できないでしょう。ニーナは主婦と女主人を完璧に兼ね添えています。はじめは多分あれこれ頼み事をするはめになると思っていたが、まったく誤解していました。すべてキチンと整理されていて素晴らしく、賞賛せずにはいられません』。
同じ時、ニールセンと一緒に客人として滞在した指揮者のユリウス・レーマンはニーナさんの料理が美味しくないとこぼしているのですが……。
●作曲小屋を借りたニールセン
先に書いたように、閉じこもり型のグリーグは邸から東におりた岸辺に作曲小屋を建て、ここに日がな隠って作曲に励んだのですが、グリーグと面識のあった作曲家ニールセンはこの小屋を借りて「バイオリン協奏曲」を構想し下書きした。後にも先にもニールセンのバイオリン協奏曲はこれ一曲しかない。仕事が捗り、なんでも美味しく食べられたのだろうか。
グリーグ没後100年に因んだ今回の音楽祭では、ニールセンとグリーグをテーマに、ニールセンのバイオリン協奏曲と交響曲をふたつデンマーク・ラジオ交響楽団によって演奏された。ニールセンはグリーグより22歳若く、フィンランドのシベリウスと同年代である。時代的には、国民浪漫楽派に属するが、作風はグリーグの曲がノルウェーの自然を思わせる意味で、デンマークを感じることはない、根無し草的近代の作風、つまり解放された人間の内に向かう芸術である。ニールセンはンシンフォニー作りがウマく、美しいメロディーもあり、聞かせどころをおさえた器楽の使い方が、天才的な作曲家である。世界中で作曲技法勉強によく研究されるが、演奏されるのは北欧を除くと稀な方だ。
逆にグリーグの楽譜は今日の作曲家から顧みられなくなりました。、コンサートのプログラムになることが少なくなりましたが、日本を含め世界的傾向としてドラマやTV・ラジオのテーマ音楽やバックミュージックに昔から親しまれているおかげで知名度は大変高い。グリーグの家に来る中国と韓国の団体さんもやはりラジオ・TVのテーマソングで知っていた。(了)