安達正興のハード@コラム
Masaoki Adachi/安達正興


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ブッシュ年末のスピーチ雑感
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〈 2006年 12月 21日 木曜日 〉


●揺れるブッシュ
2006年、ブッシュはことし最後の・スピーチをオーヴァルオフィスでおこなった。記者会見が25分、合わせて50分の会見で、イラク情勢をレトロ風に述べている箇所が、ブッシュなりの「揺れる心」が誠実に現れていて共感がもてた。

いわく:今年は幸先良く始まった。120万人のイラク有権者が選挙投票に行列し、イラク政府を発足させた。昨年は百数十万のイラク人が移行イラク議会の選挙を成功させ、2005年10月に新政府樹立の基礎となる憲法が承認されたのだが、シーアとスンニの権力争いで新政府の成立がおくれた。ま、この頃から宗派抗争が激しくなり、イラク軍と警察が中立をうしない手がつけられないようになるのだが、ブッシュは希望のあった頃を懐かしむように語っている。その話し方が、効果のある対抗措置がとれない自らのジレンマを表している。そこがプーチンと対極的にブッシュの長所になっていて、わたしはこういうのが好きだ。

●ベーカー提案は傲慢
演説と記者会見を通して、イラク・スタディグループやジム・ベーカーの名前は一度も出てこない。わがコラムでもグループの提案を机上の空論として一刀両断したので(11月15日参照)清々しました。一年もかけてヨソモノが当事者を無視してひねくり回した提案など実用になるものか。あれは日本の終戦直後に日本民主化の理想に燃える民政部の若者が発案し、横柄な占領軍が強行した政策とおなじ思考法だ。困ったことに我が国では迎合する組織や新聞社があっていまでも尾を曵いている。

ジム・ベーカー元国務長官の提案はイラク政府が頭から撥ね付けたように、ベーカー・チームのひとりよがりが傲慢なレポートだ。ブッシュの方がよほどイラク国民の側に立って考えている。だからブッシュはいま『揺れる』のです。

●米軍のイラク増強は?
ブッシュが米軍総体として増強を強く打ち出したが、これは北朝鮮やイランに好きなようにされている現状ではさもありなん。総体規模とは別に、イラク米軍をバグダッドに増強するのか、しないのかが差し迫った問題だ。増派するとしたら半年から1年だがそれで治安が回復する保証はない。米軍の犠牲はまだふえるだろう。ブッシュは先週までメOf course we win モと言いはっていたのを、『勝ちもしないし負けもしない』に言い換えた。それでもなお、治安を取り戻してイラク民主化が軌道に乗るところまで、つまり勝利を収めて撤退することへのはかない望みがメVictory in Iraq is achievableモにありありと窺える。

すべてはバグダッドへ夜行便で飛んだゲイツ新長官の事実調査を待って決めるという。『米軍はイラクで勝てない』と言明したゲイツ長官は、ブッシュから「増強で事態が回復できるかを確かめて来い」と宿題を担って初のイラク入りをした。ケーシーや、アビサイード司令官はなんというだろう。アビサイードは来年3月に退役する。両参謀とも増強に積極的ではない。ムクタド民兵に手こずるスンニが米軍増強を願っているが、シーアのマリキ首相は反対だ。

●正義と名誉がダメなら実益を
個人的には、ペロシ下院議長の言うように『イラクの宗派抗争や市民戦争に米軍は責任を負わない』という不謹慎な態度も、もはやの際の逃げ口上として有用だ。しかも撤退によって反乱武装グループは勝利に酔いしれ、中東での反米テロが潮を引く。中東歴訪でぶれない正義のブレアはいまやピエロ、ブレアファンの小生は見るに忍びない。ブッシュ米には名を棄てて実を取るおおらかさがほしい。(了)



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