●リトビネンコの恐喝商法
前回コラムの後日談です。放射性物質ポロニウム210を何らかの方法で体内に摂取させられ殺された寝返りスパイのリトビネンコを、わたしは呼び捨てに書いてきた。日本のメディアはずっとリトビネンコ氏と敬称をつけていたが、この寝返りスパイを善良な被害者みたいな印象をあたえてはまちがいだ。
で、リトビネンコの逆手商法が昨日のオブザーバー紙上で暴露された。それによると、リトビネンコは亡命したときに用意していたロシアの諜報機関FSB(元KGB)の極秘資料をネタに、英国にいるロシアの現役スパイや、在英ロシアビジナスマンを恐喝、大稼ぎするつもりでいたという。
リトビネンコ殺害の動機はこの恐喝されていた方角からいくらでも考えられ、プーチン直々が関与した疑いは薄まる。とは言うものの、サンデータイムスがやはり昨日暴露した記事では、プーチン大統領がブレア首相との秋のトップ会談の席で『あのリトビネンコを黙らせるように』と、要望したところ、ブレアに断られ激怒したという。ウーン、プーチン指示の線が消えたわけではない。
●プーチンの願いを蹴ったブレア
リトビネンコは亡命してからプーチン攻撃キャンペーンを張り、一例をあげればチェチェン大攻勢をかけたきっかけとなったモスクワのアパート爆破はときの対チェチェン戦争の総大将だったプーチンがプ仕組んだという説。だからブレアに圧力をかけてくれとプーチンが頼んだのだが、言論の自由を圧迫するなど民主主義に悖るまでもなくブレアの身に染み付いた基本理念がゆるさない。現実路線といっても限度がある。常々おもうに、そのあたりがプーチン大王ちっともわかっていないのです。
事件後、輪をかけるようにブレア首相が、『リトビネンコ殺害を究明するため、いつでもプーチンと話し合う』なんて毛を逆立てるような物言いをするものだから、ロシアからイギリスへの抗議は外交上当然。ロシア政府がリトビネンコの遺書を公表した事に抗議したのは、このなかに放射性物質を一服盛った犯人はプーチンで、プーチンに呪いの言葉を書き綴っているからで、こんなもの、ブッシュなら公表を握りつぶしただろう。イギリス・デモクラシーは憲法に反する首相の独断をゆるさない。
さて、イギリスの対テロ警察がこのリトビネンコ事件捜査と絡めてロシアに出張する。さてさて、プーチンの怒りはしばらく続き、英ロの冷えきった関係はブレアが退任するまでもうしばらく、ちょうど小泉さんが辞めるまでの中国外交に似たトップ外交断絶続が続くことに相成りました。(了)