安達正興のハード@コラム
Masaoki Adachi/安達正興


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タイ式クーデター
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〈 Thu, 21 Sep 2006 〉


● クーデターを待ち望んだ国
タイのクーデターは柔らかい変化球、デッドボールになっても痛くない草野球。プロ野球の評論家なら無視するように、全然ワクワクしないクーデターでした。だいたい国民の8割がこの軍の行動を容認し、タクシン首相を追い出して政権を掌握したことに賛成するような国に、よそ者が民主主義が……なんて言ってもはじまらない。

『国民の皆様にはご迷惑をかけ、申し訳ない。どうか協力のほどよろしくお願いします』。こんな声明でクーデターを起こす軍隊がどこにある? バンコク街路の戦車や兵士と記念写真を撮る家族、兵士に切り花を配る女の子、もう勝手にせい!ですな。

ウロ覚えしている前回15年前のクーデターでは、結局国王裁定でウソのように収まったのですが、あのとき首相が這いつくばって椅子に座るブミポン国王に向かってにじり寄る姿にビックリしたものです。そうやって許しを請い、両手で国王の手を戴き恭順の意を表すのである。タクシン首相の場合は恭順あたわずだから、引退するしかない。タイの王室は象徴制度に関わりなく国民、政府、軍、警察に無言の影響力がある。

●ソンティ司令官はムスリムで親王室
政界、経済界からソンティ陸軍司令官にクーデターを決行するよう要請があったという。戦後60年、タイでは10数回のクーデターがあり、そのたび政治は概ねよくなったのだから、さもありなん。ところで、タイには昔のイギリスや日本にあった国王/天皇の相談にあずかる枢密院Privy Councilがあり、このソンティ司令官というのは枢密院メンバーではないが、メンバーである先輩の最高司令官スラユドと親密な国王派である。臣ソンティはブミポン国王の心を忖度してクープしたのである。

ところで臣ソンティを陸軍司令官に任命いたのはタクシン首相ご本人、1年前だから昇進まもなく上司を切ったことになる。またソンティは軍の高官にめずらしいムスリムである。その出自のせいか、タイ南部で頻りになったイスラムの反乱を鎮圧するため創設された治安部隊チーフを兼ねている。

1969年に王立陸軍士官学校卒、エリートコースの特殊部隊を経たキャリア軍人です。やはりクーデターで政権を奪取し、そのまま終身大統領にしてしまったパキスタンのムシャラフのような野心家ではない。タイでは野心があっても国王の後光を受けられなかった首相がつとまらない一風変わったデモクラシーがある。

タクシンはタイ航空の特別機で、(財力があり、それが問題なのだが)ロンドンへ、そこで不正財テク同類の家族と合流し、そのあとどうするか。2週間以内に指名される新首相の人気が悪ければ、次の総選挙(来年の秋?)にタクシンが再起するやも。(了)



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