●北のミサイル 逸れる
世界の目が中東に集まるあいだ、北朝鮮の金正日は今月初めにおこなった花火ショウの続きを決行。だが今回の瀬戸際行為は崖っぷちを超えた。日本に近い日本海に落ちるよう仕組んだミサイルは弾道を逸れ東京へ落下、10数人を殺害。激怒した日本の同盟アメリカは北朝鮮のミサイル基地と核施設を爆破。北の砲兵隊ソウルを砲撃、韓国軍と駐韓米軍が応酬する。一方、中国軍は、北朝鮮避難民の中国流入を防ぐため北部国境から北朝鮮に侵入。前進する米軍は北朝鮮を北上。突然、スーパーパワーと新勢力が鼻を突き合わせる事態に。
●核の管理危機
パキスタンのムシャラフ大統領暗殺を長らく企てていたアルカイダが、ついに目的を果たす。パキスタンは過激武装が街々を徘徊し国軍は治安を回復できない混乱した状況に陥る。インドはこの空白を利用して、ムンバイ鉄道爆破テロに報復するべくカシミールに拠点をおく過激派撲滅に乗り出す。一方、米軍特殊部隊がパキスタンの核兵器流失を防ぐため急遽派遣され、怒り猛る群衆と対峙。
●(ロシア)帝国反撃する
独裁国家ベラルーシで市民の民主的改革要求が噴出する。首都ミンスクの国会前に集まった抗議の民衆が膨れ上がるにつれ、ルカシェンコ大統領はロシアの支援を要請。デモが粉砕され死者がでるに及んで、市民グループは国際社会の支援介入を訴える。アピールに答えて隣のポーランド(ソヴィエトの抑圧に苦しみ、いまはNATOメンバー)は反体制派を保護する人道的ミッションを開始する。ポーランド軍とロシア軍が交戦、NATO参戦の危険が迫る。
以上、イマジンできる大規模戦争のシナリオ。そのあと著者はしかしながら大戦争に発展する事はないだろうと『自制する諸大国』に希望的観測を述べている:
今日の世界はひとつ非常に有利なファクターがある。どの大国も、ドイツが両大戦前に、また日本が第二次大戦前にそうであったように、国際秩序の再編成を企ててはいない。
なるほど、中国は急速に勢力を伸ばしている。しばしば国際関係に不安定要因として現れるのであるが、軍事的征服者であるより(台湾を除いて)経済成長に焦点を搾っているようだ。ロシアは超大国の地位を脱落した事に憤慨しているものの、米の軍事優越を認め甘んじており、軍事再建より豊富な石油ガスをくみ出す事にもっぱら関心がある。
もちろん、米軍の絶対優勢がグローバルな安定のキーである。国際関係論のなかには、アメリカの力に対抗して他の勢力が協力団結する説がある。しかしそのような行動のはっきりした姿を見つけるのは難しい。アメリカは、つまるところ、国連の承認なしにイラクに侵攻したのであるが、にもかかわらずフランス、ロシアあるいは中国が軍事的に対応するようなヒントはいささかも見えない。
著者David Boscoは隔月誌Foregn Policyの論説委員。この雑誌は日々の報道や週刊誌よりも中期のまとまった考察が勉強になります。空港の待ち時間などに買うくらいですが、ちょっと厚めで紙がペラペラでなくレイアウト、活字の大きさが読みやすくてありがたい。(了)