●容体悪化したシャロン
ハイファにヒズボラのロケットが降り注いでいるとも知らず、アリエル・シャロン前イスラエル首相は最後の時を迎えようとしている。1月4日に脳内出血で倒れ、緊急手術のあと意識が回復しないまま24時間モニターの特別室に横たわり呼吸器で生かされてきた。リハビリの試みは成功せず、「植物状態」といわれる。腎臓機能が衰え腹水が抜けきれない容体悪化が伝えられ、生命維持装置も限界にきたようだ。シャロンの二人の息子に判断が委ねられた。
シャロンが健在であったとしたら、当然現政府とおなじように空爆に加えて地上軍を侵攻させただろう。しかしもっと組織化され、効率の良い速攻ができたのではないか。ヒズボラのロケット発射現場を空爆するのにノロノロしていては移動されてしまい実効がない。シャロンは根っからの軍人キャリアで、建国以来中東戦争の全てを経験している参謀である。シャロンならもっと手早く出来たのかなと思う。
●軍歴のない首相と国防大臣の戦争
軍歴のないオルメト首相と、これまた軍歴のないベレツ国防大臣のコンビでは、国防軍司令官たちのチームワークをまとめることもままならない。士気にも影響する。2週間のイスラエル攻撃に耐えた相手はヒズボラが初めてである。闊達な武器に加えて母体であるシーア住民の村や住宅街に潜み、テロの戦法をとるヒズボラを完全に駆逐するのは不可能だ。ブッシュは『あの糞ったれロケットさえストップさえできたら片付くよ』と漏らしたが、そこが一筋縄ではいかないんですよね。イスラエルの戦いは失敗だった。そう結論づけて良い。イスラエルは不本意ながらあと一週間で攻撃休止、落ち着くところはヒズボラ勢力を温存したまま、EU諸国の派遣部隊を主体にした国際PKOが緩衝地帯に駐留する、そんなところか。
●シモン・ペレスが祖国弁明
イスラエル軍の攻撃は行き過ぎ、人道違反、軍上層部を国際戦犯法廷に訴えるなど、イスラエル非難が激しくなるのに対抗して、ペレス外相が欧州と米にイスラエルの見解を伝え、正当性を主張するため派遣される予定。このノーベル平和賞受賞者は強烈なユダヤ主義者である。ペレス節は米では快く受け入れられるが、概して欧州ではハナツマミにされている。しかしながらイスラエル側の立場に身をおけば、その視点と論理は決してひねくれていない。
● ノルウェー国連トリオ
▽ヤン・エーゲランド人道緊急援助調整官(国連事務次長)
レバノンの被災者救援、国外避難に活躍。被災地で人道問題もちあがるたびTVでおなじみの顔、まじめ人間、一所懸命の人である。23日はベイルート入りして政治的介入の必要を訴えていました。この人の事はコラム二册目「ツナミ地震(3)好漢ヤン・エーゲランド〈 Mon, 03 Jan 2005 〉」にあります。
なおこの国連職に明石康、大島賢三(現国連大使)がいた。
▽テリエ・ロド・ラーセン中東問題国連代表(国連事務次長)
アナンの特命代表としてパレスチナとイスラエルの和平を担当する国連事務次長。国連決議によるシリア軍のレバノン撤退とヒズボラ武装解除を実行させる国連監視団の代表でもあった。ベルゲン出身。この人の事はあちこちでさんざ批判してきた。いまも国連はこれこれのことをやっていると羅列しては自負するばかり、実績のない人。
▽ゲイル・ペーダセン レバノン駐在国連代表
昨年からレバノン南部に駐在する多国籍停戦監視軍に国連代表として赴任。ヒズボラの武装解除とイスラエル攻撃によって被る報復の危険性を訴えてきたが無念。国連関係者の殆どは国外に避難したが単身ベイルートに残っている。ノルウェー外務省のベテラン外交官。
これら中東で活躍する3人に共通の経験がある。3人は外務省で若い頃、駆け出しのエーゲランドなどとオスロ合意の秘密交渉に裏方雑用役で参加した仲間である。