●ヒズボラとハマスの似た者同士
ヒズボラを壊滅しようとすればレバノンの半分を壊滅しなければならない。ヒズビラはレバノンの半数を占めるシーアに支えられ、国内最大の宗派社会を成している。国会でも有力政党をもち、ポピュラーなTV局を運営、社会福祉や医療サービスをおこなうなど、パレスチナにおけるハマスの活動と双子のように似ている。それぞれ武装派が国の軍隊から独立してテロをやるところもそっくりだが、規模と組織に格段の差がある。
●いつのまにか強大になったヒズボラ
ヒズボラは武装解除を要求する2004年の国連決議もなんのその、正規軍に合流せずにそれ以上の軍隊をつくりあげていたのです。ヒズボラがイスラエルに撃ち込んだカチューシャは3日目で700発、ただのゲリラではないのです。このカチューシャ・はハマスの自家製カッサムと違ってヒズボラが大量生産しているので製品のバラツキが少ない。そのため射程25キロまで発射角度を調整しておよその場所に一度に多く撃ち込む事が出来る。オリーブの林をあちこち持ち運んで三脚台から発射するもの、発射レールを搭載した軽装甲車も多く装備されている。
ハリリ首相が爆殺されてから背後にいた駐留シリア軍に風当たりが強まり、シリアのスパイと駐留軍は昨年撤退した。そのあとヒズボラの装備・組織が軍隊らしい力をつけた。その国連決議違反の拡張に、イスラエルが警告しても国際社会は反応しなかったのだから、いま、イスラエルは米英中ロ、だれの説教も受け付けない。ヒズボラを武装解除してくれるなら話を聞こう、という態度だ。
●イラン製、中国製のミサイル。
ハイファの鉄道操車場を爆破し、死者8人を出したロケットは45キロまで届く「ファイル-3」で、これはイラン製。また初日にハイテクのイスラエル艦艇に命中したのは中国製のレーダー誘導対艦ミサイルC-820と言われている。いまのところテルアビブやエルサレムを射程にするイラン製のゼルザル-2は保有していない。しかし取得しようと躍起になっているので、それまでの間にイスラエルはレバノン全土のヒズボラを退治しなければならない。オルメトはいまそういう強迫観念にあるのではないだろうか。
●イスラエルの精緻な攻撃
もちろんイスラエルの武器は比較にならない優越を誇っているが、たとえばハイファの操車場に落ちたミサイルの場合、イスラエル空軍機はその発射場をすぐに発見してから、照準を合わせ翼のミサイルを発射、正確無比にカチューシャ・ランチャーを爆破するまで数分を要した。その数分のうちにヒズボラの射った一弾が操車場に当たったわけで、「下手な鉄砲数射ちゃ当たる」を侮ってはならない。イスラエル側の死者は現在24名、レバノン側120名。もちろん不均衡であるが、ヒズボラのミサイルはイスラエルに衝撃的な心理動揺を与えた。
イスラエル空軍はレバノンの幹線道路、空港、港湾、橋、幹線道路の交差点、国境基地や本部のある首都ベイルート南部、ヒズボラ軍事施設など100カ所以上の攻撃目標を日頃から準備している。十字路の真ん中をピンポイント爆撃してそこだけ陥没させたり、滑走路の要所を破壊して機能をマヒさせるところなど、お見事とおもいきや、昨今ではこういうインフラを破壊する戦法は市民の移動を阻むよからぬ戦法らしい。国連人道問題事務次長のエグランドはインフラ破壊を犯罪行為で、イスラエルに弁償修復の義務があると発言。そうかなと思う。しかしベイルートのヒズボラ本部攻撃ではビルの角、階まで正確に破壊、市民への犠牲をできるだけ避けている。またヒズボラと関係のない地区や在外公館へは攻撃しないと決まっている。逃げ出した大使館は無い。
●脱出組に行路の保証を出すイスラエル
自由で多宗教が共存するベイルートはイスラムビジネスの中継地であり、観光都市だ。在留外国人は米の25000人、ゆかりのあるフランスは1万人を超えイギリス人も多い。英国国籍で脱出したい者を救出するためイギリスはできるだけ大人数の出国者を乗せるため、戦闘機なしのカラ空母をトリポリ港に派遣。各国それぞれ知恵を絞っている。ノルウぇーの場合、近くにいた同国籍のバラス船に頼んで救出に待機させ、結局大使館がチャ−ターしたバスを連ねて300人がシリアへ脱出した。これはイスラエルから行路の安全保証を得てバスの屋根にノルウェー国旗を付けて出発、無事ダマスクスに到着した。
誤爆は避けられない。しかしヒズボラ軍事組織以外のレバノン市民、ましてや在留外国人に危害を加える意図はオルメトからイスラエル軍の一兵卒までいっさいない。「ヒズボラを壊滅しようとすればレバノンの半分を壊滅しなければならない」と、冒頭に書いたが、いつまで戦闘がつづくだろうか。冷静にイスラエルの戦法を観察すれば、攻撃は一ヶ月以内におさまると思う。(つづく)