安達正興のハード@コラム
Masaoki Adachi/安達正興


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ムスリムの群衆ヒステリー
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〈 Sun, 05 Feb 2006 〉


4日(土)、シリアの首都ダマスクスのデンマーク大使館と同建物の一階にあるため先に焼かれてしまったチリ大使館、そこから離れたノルウェー大使館が焼き討ちにあった。予言者ムハンマドの政治風刺画が心の底からムスリム怒りを招いたのか、それはないとわたしはおもう。西欧に抗議できるネタがあればひと暴れできるオモシロアクション、娯楽といってもよい。日本のおとなりさんとちがうところは、暴徒を野放ししても反政府運動にはならないことと、直接の原因が首相でないので政府間の軋轢は一過性であること。

事件のキッカケはご存知のようにデンマークの『朝刊イッランド・ポステン』 (Morgenavisen Jyllands-Posten) に掲載された12枚のムハンマドを風刺したマンガなのですが、これがなかなかのインテリ紙でリベラルです。移民にもリベラルな論評をする朝日的な新聞で、わたしも時々ネット版を覗きます。おっとそうか、あまりインテリ系ではないかもね。記事のテーマは『言論の自由』について、イスラムにはそれが欠けるという論評に付されたマンガである。

しかしこの記事が“何日”掲載されたかはご存知なかろう。昨年の9月30日です。古〜いハナシなのです。このときはデンマークのムスリム租界ですら騒動はおこらなかった。ではなぜ飛び火したのかというと、世界のムスリムに焚き付けた人物がいるわけで、デンマークのイーマン・ラバン師がその人。コペンのモスクで説教し、それ以上に各国のイーマンに『こんなことがあるぞ』とファックスや電話で熱心にご注進に及んだ。

ファックス効果が出てきたころ、年明けてノルウェーのキリスト教系の名前もしらなかった地方小紙がくだんのマンガ12枚を転載し、事態は嫌悪になってきた。この編集長は殺害予告を受けていま身を隠している。オランダの映画監督テオ・ファン・ゴッホがムスリムを侮辱したとして予告どおり殺害されていますから無理もないわ。しかしイッランド新聞の編集記者さんはひ弱そうにみえるけど、逃げも隠れもしない。この人きっと独身だな。スランス・ソワール紙とドイツの新聞が転載して言論擁護、ル・モンドも紹介というかたちで掲載したのはジャーナリストの横の絆であろうか。

イギリスだって世論調査ではああいうマンガは「良くない」が1%だけ上回ったが、転載すべきかという問いには「転載してくれ」が圧倒的なのだ。見てみたい好奇心はだれだってある。ムスリムはもっと強く見たがりますよ。ヨルダンで転載されたタブロイド紙はたちまち売り切れ、編集長は逮捕された。逮捕覚悟で別の新聞も後追い転載したという。モロッコでも転載。ならばそういう新聞社に抗議デモが起らないのは納得いかない。彼らはは欧州紙にしか怒らない。ン、自分の国旗を燃やすわけにもいかないか。でも新聞社の社章とかカンバンとかあるでしょう。

話をもどして、上記のイーマンは最近TVにしばしば現れ、アルジャジーラのインタビューには「ボイコット」をけしかけ、欧州メディア向けには『ムスリムは寛容を』なんて人当たりがよくて2枚舌が甚だしい。異国で働く聖職者によくあるタイプだ。最初の暴力デモはガザ地区、いちばんフラストが貯まっているファタ派のヤング、それにハマスヤングも呼応し外国の事務所や各国NGOが入居するEU事務所前でデンマーク、ノルウェーの国旗を焼いた。デンマークのラスムッセン首相がガザデモの後で「謝罪ではない遺憾」の意をアル・アラビヤTVで弁明したところ、これが火に油を注いだ結果になり、その日から群衆ヒステリーが燎原の火のごとく、ハシカの発疹みたいに、バグダッド、テヘラン、カイロ、イスラマバード、ダッカ、ジャカルタ、ダマスクスへと広がったのでした。

次はどこだ。 まだ無傷のベイルート(レバノン)だろう。翌5日(日)予想が的中:デンマーク領事館が放火され、広場でクリスチャン・グループとシーアグループが衝突。そのつぎはと見渡せば、アンマン(ヨルダン)は暴徒化するほどでもないし、トルコは反米デモはやるが欧州の国旗を焼くようなことはない。北アフリカが残っているが一応めぼしい首都は一巡した。そろそろ下火になる頃か。

デンマーク製品のボイコットくらいならいいのだけれど、イランはノルウェーの2大石油企業「スタートオイル」と「ノスク・ヒドロ」との取引中止を言い出した。積年の努力とつぎ込んだお金が水のアワワになりかねない企業はホンネ(首相が謝れば一件落着)が言えないだけにいらだっている。

イスラムの政府では西側政府の謝罪をダンコ要求する。しかし民間の新聞社がやったことに民主主義政府が謝罪するかしら?。ブッシュ、ブレア、法王、アナンもできることといえば『信仰の対象を侮蔑するのはよくない、遺憾だ。同時に言論出版の自由は守らねばならない』と古典的正論を述べるにとどまる。だって、それ以上に何がいえますか?。だがイスラムには通じない。まさに文明の衝突。謝れ、謝れって連呼する国と対話は不可能・・日本が体験済みです。(了)

後書き:デンマークとノルウェーは当該国に損害補償を要求するにとどまらず、国連討議に持ち込む構え。



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