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タイムズ紙、小泉首相会見録
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〈 Sun, 02 Oct 2005 〉
タイムズ紙オンライン版に掲載された速記録を私の全訳で紹介します。サイト: http://www.timesonline.co.uk/article/0,,3-1801759,00.html 小泉純一郎首相、タイムズ紙編集委員ロバート・トムソンと首相官邸で会見、2005年9月27日: 質問:今回は大勝でしたね。あれだけの勝利を手中にして以上、ひと夏を超えて努めるお気持ちは? 小泉:もちろん、誰もこれだけの勝利をおさめたものはいない。しかし初めから言ってきたように1年で引退します。 質問:首相は改革の信任をえたと思いませんか、後1年間でやるべきこと全てをするのは難しいのではありませんか? 小泉:これはどの首相にも当てはまることなのですが、首相が果たさねばならない仕事ってきりがない。しかし残りの任期に自分がやらねばならない仕事は終われるとおもう。 いつも言うように、我が政府の最優先政策は一貫して郵政民営化なのです。わたしはこれを改革のとりでと呼んでいる。もし実現できれば政治的奇跡といえる。いまその奇跡が起こりそうにみえる。 郵便制度は民営化が必要であり、民営化すると首相に就任して宣言したとき、多くの人は疑ったにちがいない。疑いはよくわかる…というのは野党が民営化に反対したばかりでなく、じっさい与党議員も反対だった。国民がその実現可能性を疑問視したが、民主的な国ではふしぎでもなんでもない。 30年の政治体験から認識したことだが、政治現象として法案に反対した議員が突然支持に回るモーメントがある。そしてそのモーメントにきた。事実この郵政改革法案は8月8日、国会において葬られ、そして復活するとは誰も予期しなかった。 質問:歴史に名を残す、歴史のどの辺か自身の心当たりは? 小泉:衆議院解散については、法案が参議院で否決されたからといって衆議院を解散した例は過去にない。その面からまさに歴史的解散と言える。 さらに反対していた議員が一転して同じ法案に賛成するのも異例です。この面からも歴史に残る現象と言ってよい。小泉の名前はそのときの首相として刻まれるでしょう。 質問:郵政改革は行政改革と同じくらいシンボル的なイッシューなのではありませんか? 小泉:これはなかなか複雑な様相がある。選挙に勝った理由をいくつか分ければ、過去4年のわたしの業績が評価されたこと、押し進めてきた改革が国民の支持を得たこと、そして郵政改革への支持を得たことなどがある。こういった要素の全てが絡み合っていると思う。 景気低迷から経済回復を達成するため私がとった方法は与党内の軋轢をもたらした。たとえば銀行不良債権処理のために私が行った措置は、実際不景気のなかで公共投資を削減したわけです。従来の政府と乖離した経済政策でした。 従来の慣習では、自民党総裁・日本首相になる者は与党の強い支持を前提としていた。私の場合、与党主流派争いの真っ只中で首相になった。その意味ではたいへん珍しい首相だろう。 実際、『民主主義なの?』と私に尋ねた欧米の人がいる。やはり党首・首相たるものは与党議員の支持によってその地位に就いている。野党に対してばかりか、与党に対しても争う首相はなにか間違っているのではないか、と彼らは私にいうのです。 与党党首である私に反対する人は、私を独裁者『ヒットラー』と呼んだ。それはおかしい、私は選ばれた……選挙で信任されたのです。 選挙運動中、私は国民にむかっていった。参議院で法案に反対した議員は日本の国民も反対していると思っている。だから反対に回った。『もし皆さんの支持によって勝利できれば、参議員はやっと国民も法案を支持していたことがわかるだろう。そして立場を変えるだろう。だからこの選挙に勝たせていただきたい』。そして最終日に速報を見ながら、参議院の造反議員たちは驚くべき早さで態度を変えた。 この選挙は日本国民に国会決議をひっくり返すよう訴え、結果、そのようになった。この意味でまさに歴史的選挙であったとおもう。質問:来年6月、もし世論調査が80%を示すなら留任しますか。それとも支持の声を無視しますか? 小泉:〔笑い〕世論調査でそんな結果でるわけない、70、80%の声が続行を求めるなんてことは。 質問:ではもし明らかなマジョリティーを占めた場合、再考されるでしょう? 小泉:再考をうながす理由にはならない。というのは9月に自民党総裁選挙が行われ、その頃6月になると候補者は総裁選運動はもう始まっている。 質問:時期首相に女性は、考えられますか? 小泉:誰が近い将来次期首相候補に適任か、ほんとにわからない。 質問:素質のある後継者は何人ぐらい頭のなかにありますか? 小泉:4,5人くらいか。 質問:日本は第2次世界大戦に謝罪したが、海外ではまだ謝罪していないと看做す人々がいる。前大戦に対する日本の公的な立場を世界にむかって明らかにするため、セレモニーのような形で行う考えはありますか? 小泉:そのようなセレモニーの考えはない。戦後60年間の日本が辿ってきた軌跡を見てもらえば、過去を反省し後悔していることが理解されると確信しています。 あなたは中国、韓国との関係を言及しているとおもうが、現実は以前よるはるかに日本と両国の交流が増しているのです。 私が靖国神社参拝に中国が反対するのは政治的理由だと思う。 質問:それは国内的な理由ですか、国外的理由ですか? 小泉:国内的理由です。また中国は日本の政治的影響力の増大を望んでいない。たとえば日本の国連安保理・常任理事国入りに中国は反対だ。日本の国際影響力を阻止したいからです。 質問:靖国参拝の意思が明らかではない、どうしてですか? 小泉:実際のところ中国人は私の考えを知っています。もちろん中国指導部は私の意思を承知している。しかしまた他人の立場も考慮する必要がある。ですからこの件は公にするべき事柄ではないとおもう。いつも他国との関係を念頭に置いている。 質問:今年中に靖国参拝あると予想してよろしいか? 小泉:そういうことは言わない方がよい。中国側も理解しています。 質問:国家アイデンティティー戦後の発展とともに、日本ではナショナリズムに混乱が見受けられます。懸念されますか? 小泉:それは誤解、あなたの見ているのはナショナリズムではありません。日本人は過去を深く反省している。第二次世界大戦を後悔し、二度と戦争をおこさない信念を世界のどの民族よりも強く抱いています。 質問:公式見解として経済は回復したでしょうか? 小泉:回復期間はこれまでのところ過去のどの回復よりも長いものの、われわれはインフレ(ママ)を克服していない。公式にインフレ(ママ)を克服するまで回復を公式に宣言することはできない。 質問:この前会見したとき、あなたは睡眠4〜5時とのことでした。選挙後はもう少し長く安寧に眠っていますか? 小泉:〔笑い〕睡眠時間は変わらないだろう。選挙中よりは多分熟睡しているのかも、目覚めの回数が減った。 質問:引退したら何をするつもりですか……庭いじり、音楽リスニング? 小泉:いや、まだそこまで考える所に来ておらない。今言えることは9月まで首相としてベストを尽くして任務を全うすること。辞めた後はきっとたくさんやることが見つかるでしょう。 首相として音楽を楽しんではいるが、ベッドでCDを聞くだけ。辞めたらコンサートへ、DVDのかわりに映画館へ行きます。また、人は首相である限り何をするにも公的になる。首相でない身なら、楽しみかたがいろいろできます。 質問:今読んでいる本は? 小泉:今読んでいるのは戦国武将、400年ほど昔の日本の歴史です。 質問:現代に通じるレッスンがありますか? 小泉:厳しさ、戦国侍の厳しい日常について多くを学んだ。毎日彼らは死と対峙している。大いに学ぶところがある。 質問:戦国武将は誰を? 小泉:小田信長、豊臣秀吉、徳川家康のことです。三人の戦国大名は時代の歴史にあって絡み合った人間関係をもっていた。 質問:英国労働党は日本の自民党のようだと評する人がいます。真の敵対者は労働党内部から出るからです。そういうこと気づいていますか? 小泉:日本では与党は与党、野党は野党だと思う。 私の内閣が直面した困難は、与党の強力な議員が心の奥で私の政策に反対で、了承して支持しなかったことだ。私はこれら与党の反対派を翻意させるのに多大のエネルギー費やしなければならなかった。彼らは心底から私に反発……小泉は総裁で首相である故に、日本国民が郵政改革を支持している故に反発したのです。それはひとつの難しい部分だった。(了) 後書き:引用はご自由に、ただし首相官邸からクレームがあっても関知せず。 |