安達正興のハード@コラム
Masaoki Adachi/安達正興


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イランを読む、J.シンプソン
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〈 Sat, 02 Jul 2005 〉


● あこがれのJohn Simpson
BBCのジョン・シンプソンは事件のたび、なぜか現場にいてナマでディープレポートを送る国際政治ジャーナリスト。ルーマニアのチャウチェスクが失権したとき、南アでは自由の身になったマンデラがヨハネスブルグに現れたときにも早々と現場に立っていた。湾岸戦争のレポートではバグダッドから退去命令を無視して報道を続行し、これでジャーナリズムの頂点に立つ存在感を示した。現在は第一線を退いて国際報道主幹に落ち着いているが、最近の圧巻レポは日本でも見た人も多いだろう。

たとえば、アフガニスタンではカブール陥落を目前に夜明けの砂道を徒歩で市内に向かうTVレポ。一番乗りの北部連合軍の兵士がジープやトラックで追い越し、市民がまちへ駈けてゆくところ、その日の高揚、助走の部分を活きいきと伝えた。

イラク戦争では、クルド側から米軍コンヴォイの中に入ってバグダッドへ向かう途中、友軍の誤爆を受け、混乱のまっただ中から直ちにレポを送ったナマ中継が忘れられない。焼けこげた死体、肉片のなかを歩きながらレポする氏に、アンカーウーマンが『足から出血している、大丈夫ですか』? 氏は爆風でボロボロになったズボンからむき出しの膝下から血がにじんでいるのに気がついて『大丈夫、破片がカスっただけ』。

このときは車の横に座っていた通訳が死亡、氏は防御チョッキのおかげで耳と脛に軽傷を負っただけで助かった。その報道姿勢と視点は米人記者とひと味異なり、特に広範な知識に裏付けられたニュートラルな論評はわたしのフェイバリットです。この人の本は数冊よみました。決してセンセーショナルな意見をつくらない。これまで彼のチームから20人くらいは命をおとしている。なかには暗殺された協力者もいる。紛争地帯を渡り歩き、戦争の悲惨にくわえて、チームメイトたちを失ったことが影響しているのか、ヒューマンな論評がひかるジャーナリストである。

アフマディネジャド(以下アフマと略)の記憶について、シンプソンは『20年前のことであり100%確信できないが』とことわっている。が、わたしはシンプソンなら100%信用してしまうのです。

さて,少し長くなりますが以下にシンプソンの意見を意訳しました。

●アフマディネジャド・イラン新大統領
イラン新大統領の写真を見た時、どこかなじみの顔に思えた。私や西側のジャーナリストの多くが現在イラン入国を禁止されているが、革命後数年して米大使館で会ったに違いない。イランでのイスラム革命の後、アフマと会いインタビューを行った。緊張、明晰、激しい意見、一度会ったら忘れられないタイプノ男だ。しかし24年を経て正確な記憶は薄れ、絶対とは言い切れない。残念なことに(放映されなかった)フィルムラッシュはBBCに保管されていない。これがあれば確かな証拠なのだが』

『占拠時、APが撮影した頭に袋を被された人質を誘導する新イラン大統領に似た男、目が落窪んでヒゲ面の様相は、あのころテヘランでみられた革命分子に多かった。本人が否定し、また占拠に加わった者が[彼は一緒でなかった]と云う。彼らはいまアフマに反対する側にあり、したがってイランでは政治的にこの問題は決着がついたとおもえる。

●国際的関心
1980年代、イラン革命を支持した者の大部分が大使館占拠を支持していた。89年にホメイニ師が亡くなったあと、宗教家でない大統領としてアフマが最初ではある。ところがアフマは前任の宗教家出身者のだれよりも原理主義的なのだ。

米からみれば、イランという国は反米を煽動し、威嚇とテロを利用して地域に勢力を拡大しようと企んでいる忌まわしい国、となる。一方、英仏独は困惑、かねがねイランは基本的に穏健であり、西側と良好な関係を望んでいることを米に説明してきたてまえ、気まずく黙っている。

これまでのところ、大使館占拠に関与した米の疑惑表明に怒るイラン政府 にたいし、アフマは刺激しないようつとめて穏健に振る舞ってきた。とはいえ、アフマがアヤトラ・ホメイニの原理主義革命に関与したことに疑いを挟む余地はない。

●選挙を通さない権力
イランの政治は西欧にくらべて枝分かれが複雑だ。「保守派」とか「改革派」はマジリス(イランの国会にあたる)にあって実際たいした意味はない。ポスト革命社会の常として、アフマはマジリスのなかの一グループからサポートを受けている。しかるに、イランのポリティックスは「アバドガラン」または「先進」のような全うな政党を本能的に遠ざける傾向がある。

多くの「アバドガラン」のメンバーはちょうどアフマのように:50歳以下、労働階級出身、熱心、1879年のホメイニの革命を今も強く信じている。身なりも似ていて、黒っぽい上下を着けノーネクタイ、無精風あごひげ族が多い。この風体とハメネイを支持する支配層の外見はかなり開きがある。

アフマの大勝利は南テヘランや各地ののスラムで得票を延ばしたとされるが、今後この支持層がアフマを不安定にするだろう。ホメイニ革命の目標は裕福で腐敗した一握りの上流社会に対抗して貧者のための政治にあった。しかしイランの階級差はいよいよ明瞭で、下からトップにのぼったのはわずかである。

イランのように複雑で精巧な政治形態は、わたしが観察した世界で見たことがない。複雑さは、選挙を経ない宗教指導者が国民に選挙された大統領より大きな権力を持つというイラン憲法によって、さらに捩じれている。

西側に開かれた国にしようとしたハタミ前大統領が頓挫した理由はこの上位権力による赤信号である。交差点まで進むといつも赤信号でストップしなければならなかった。アフマ大統領はきっと逆方向に進むだろう。すでにハタミが行なった改革条項をテヘランではつぎつぎもとに戻している。

もし彼の過激な支持者が、ヒゲを沿った男性や、髪の毛を見せ化粧し肌を出す女性をアタックするようなことがあれば、社会的緊張が高まりやがて暴力に発展するやもしれない。

●核戦略で一致するハメネイとアフマ
ハメネイ師は宗教的保守派であるが、市街地での暴力を好まない。また選挙で大勝したからといって何でも出来るイランの大統領職ではない。選挙前、ハメネイ師は改革派の大統領候補を出馬禁止にしたが、投票用紙に禁止した名前を刷り込んでおいた。ハメネイ師はイラン政治の単なるプレイヤーではなく、国政のレフェリーは自分とおもっている。

ここでひとつ、ハメネイとアフマの一致する政策がある。核問題である。イランは難しい隣人に囲まれて暮らしていると不安に感じている。イスラエル、中国、ロシア、インドとパキスタンすべて核を持つかあるいは即座に可能な近隣国家、そして地平線のかなたにアメリカが………。イランもまた核のオプションを持ちたい。

英仏独がやれることは、核開発をもっと注意深く適切な処理を説得し、あとはハメネイ師が道理を理解してくれるよう期待するほかない。だが昔会った記憶から云えば、アフマ新大統領は「注意深く」や「気配り」を求めて話し合う相手ではない。(了)



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