●ネオコン・タカ派から人道主義者へ
ウルフォウイッツ国防次官は口のかたちが俳優のエドワード・G・ロビンソンのようにいかつい。その口が『アメリカのアジェンダを世銀に組み入れない』と、キっパリ言い切った。おやまあウルフォウイッツは巷でいわれるほどタカ派ではなかったの？　ブッシュさんの許可を得てのことなのか、そうでなければ体よくワシントンから追い出されたとする「読み」が信憑性をおびてくるのだが。

世銀総裁に指名されるまではついぞ聞けなかったコンパッションを語り、指名の翌日のインタビューからソフトにイメージ・チェンジにつとめている。「これから各国財務大臣や銀行家と会って、意見を聞き，学びたい。よくひとの意見を聞く人間であることを知ってくれるでしょう」。と、まあ、ネオコンイメージが一朝一夕にしてデリートできたら世話ないが、次の発言に彼らしい顔がみえる。

●人道支援の目標は自由と解放？
『HIV,エイズ、貧困など、世銀がかかえる支援は人道問題である。が、（一歩進んで）健全な経済地盤きずいてこそ自由と解放を前進できる』。大要そういう趣旨だが、自由と解放がやはりでてくるんだわ。究極ではブッシュと歩調をあわせている。それが悪いなどとさらさら考えてはいませんが、アカのついた自由と解放に食傷気味でね。

欧州の理解を得ようと、ウルフォウイッツは政財界のキーパーソンに、U2のロックスター、ボノにも電話をかけた。世銀総裁候補に名前があがっていたボノは、貧困救済に一貫した活動実績がずば抜けてある。他のNGOと協調性にかけ偏屈らしいが、実際莫大な私財を投入しているうえ、論がたつのはTV討論でおなじみ。そんじょそこらのチャリティー芸能人ではない。電話で意気統合したかどうか、偏屈は味方につけるに限ります。

しかし、ウルフォウイッツは世銀総裁になって、貧困撲滅という崇高なミッションへのやる気、思い入れはそうとうなもの、熱意がジワジワ浸透しつつある。ペンタゴンのNo.2が小躍りする職でもないとおもうが、大まじめである。ロイター記者に語ったところによると『目の前にある仕事をする』、つまりブッシュ政権ではテロとの戦い、軍の再編、中東に民主主義を押し進めるという新しい任務に専念、職務をまっとうした。ということになるらしい。

●キャリア官僚がワシントンから出る理由
常に新しい任務に専念うんぬん。思想的に合致した点をはぐらかして・・ごまかすなといいたいが、目前の仕事をこなしてきた経歴はそのとおりである。このひとは24年、6人の大統領のもとで働いてきた。その都度シュッセしてきたのに２期めのブッシュ政権ではシュッセポストがひとつひとつ消えていった。国務長官、安保担当補佐官、CIA長官、新設の国家情報長官・・なにも残っていないではないか。ラムズフェルドの後任は新顔が要る。ワシントンから出るしかない。（了）

余談：氏はかつて学部長だったジョン・ホプキンス大学国際学科で世銀のスタッフを教育したことが自慢だそうですが、世銀総裁ポストとは関係ないようにおもいまーす。総裁人事の投票権は加盟百数十か国から24票、過半数を米が占める。よって８月就任は決定も同然。　

BBC投書から典型的な北欧の意見をひとつ。
First of all, why should the US be allowed to appoint each and every World Bank president? They fail to run their own economy. Secondly, the president of the World Bank, and therefore the World Bank itself, must enjoy the respect of people all over the world. Wolfowitz is considered a bad guy even in countries that are US allies.
まず、どうして米が毎回世銀総裁をノミネートするのか、米は自分の経済に失敗したではないか。次に、世銀総裁とはすなわち世銀そのもの、世界の人々から尊敬されるべき存在だ。ウルフォウイッツは米の同盟国からさえ悪者とされている。（了）