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王朝歌にみる冬の美
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〈 Mon, 17 Jan 2005 〉
天候がパっとしない折から,元気づけに冬を詠んだいい歌を見つけたくなった。 日ごろ親しむ世界ではないので、いざとなるとまる覚えはポピュラーなこれ一首しかない。万葉集から山部赤人の歌:
たごの浦に打出てみれば白妙の ふじの高嶺に雪はふりつつ そのあと自動的にウラ声で: ♪ふじの高嶺にふる雪も、京都本斗町にふる雪も ♪雪にかわりがあるじゃなし、融けて流ればみなおなじ これではならじ、気分を落ち着け面を引き締め眼鏡をあげて、いにしえの歌に冬の美を学ぼう。敬白「日増しに明るくなるこのごろ、心なしの雨風に春の近づくを歓ぶに至らず。憂鬱を慰めむと、今宵、冬の詠み歌など渉猟す」。 月さゆる氷りのうえに霰ふり こころくだくる玉川の里 --俊成 み吉野の山かき曇り雪降れば 麓の里は打時雨(うちしぐれ)つつ --俊成 俊成には秋冬の侘しさいやます歌が多い。でも余情がある。我が家からみるとウルリケンやリーダホーンの山に雪が降っている頃、ベルゲンの里はみぞれ雨。シチュエーションは似ている。 おほぞらの月のひかりしきよければ 影みし水ぞまずこほりける --古今集,詠み人しらず ひろびろと冷えびえとした月光の夜気が伝わってくる。あたりまえの自然現象といえばそれまでだが,てらいの無い詠み人がうらやましい。 おもひやれ雪も山路も深くして あとたえにける人のすみかを --後拾遺,信寂法師 情報化・車社会が失ったいにしえ人の心の襞が美しい。いまでは一冬隔離される雪の里はなく、4輪駆動が走り暖房が行き渡っている。万葉古今の頃,平均寿命が40年あるかなきかの人の一生で知り合う人はわずか。さぞ人情思いやりが深かったのだろう。 さむしろの余波の衣で冴えさえて 初雪しろしをかのべの松 --新古今,式士内親王 読めばよむほど味わいがある。( さむしろはむしろ、敷き布団のこと) 久にして 照れる日 かげを嬉しみつ 雪礫(つぶて)投ぐ 山をめがけて --窪田空穂 雪ぐもり ひくく暗きにひむがしの 空ぞはつかに 澄みとほりたる --斎藤茂吉 近代の歌二つ。どんよりした雪ぐもの日々,晴れ間をみるうれしさは格別。そういう歌があったことに感動。(了) |