安達正興のハード@コラム
Masaoki Adachi/安達正興


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ムンクの叫び

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〈 Sat, 28 Aug 2004〉


8月22日、我が家に滞在中の友人二人とフィヨルドとフロム鉄道の旅を間に挟んでオスロのホテルに入ると、夕刊にムンクの【叫び】が大きくカラー刷りされている。盗まれたとはショック。待機している車に繪をもって乗り込むぼやけた写真もついている。ビックリ仰天、部屋に入るやTVニュースにしばし見入る。北欧チャネルはもちろん、CNN、BBC、ドイツTVも報道する国際事件になっていた。

オスロのムンク美術館は、市の中心からやや離れたところに大きな敷地をもつモダンな建物です。が、年月を経て雨漏りするほど傷んでいるのに、管轄するオスロ市が予算不足でながらくスキャンダルになっていたところ、15年ぐらい前に【出光石油興産】がムンク美術館を修復するようにと多額の寄付金を貢献することになった。なぜかというと出光が権益を少々買った北海石油の鉱区が大当たり、そういう場合企業はワイロを要求する役人に贈り物をせざるを得ない国もあるが、ノルウェー国ではまさかワイロというわけにもいくまい。当地では公益団体や文化事業を支援する体裁をとるのが一般的な習わしになっている。よって出光さんは儲けの一部をムンク美術館に寄贈された。以来、東京の出光美術館へはムンク美術館から常時1点貸し出されているハズである。

話をもどして、盗まれたのはコレがないと美術館の存在意義がないほどの有名な絵画、目玉ちゅうの目玉【叫び】と【マドンナ】である。午前11時、館内には豪華クルーザーの乗客グループや個人の見学者でまずまずの入りではあるが、日本人の感覚では閑散とした状況といえる。そこへ武器をもった目だし帽の二人組が、監視員に床に伏すよう命令、針金で吊るし止めただけの額縁をもぎ取って【叫び】を小脇に抱え、もうひとりは大きい方の【マドンナ】両手に掲げてを一目散に館外へ走る。待ち受けた車に乗って逃走した。このときに通りがかりの市民がカメラにおさめた写真を夕刊で見、世界に流れた映像である。

待機していた車の運転手を含めて、窃盗犯はいちおう3名。車は数キロのところに乗り捨てられており、車内は痕跡を残さないように粉末散布器で白っぽい粉だらけになっていた。ここで車を乗り換えたもよう。警察は翌日朝から昼頃にかけて発見された額縁の残骸と、乗り捨てられた車からハイテク分析を入念におこない、既に手がかりになる痕跡を見つけたそうだが、6日目の現在、捜査は進展しているようにみえない。油絵はキャンバスを巻いてどこへでも隠せるゆえに、捜査はオクラ入りになる公算が強い。わたしは悲観的です。

いつも事件がおわってから警備と監視システムが十全でないとの批判が出る。そんなこと言ったってね〜、同情するのがふつうですが、ムンク美術館はあまりにもだらしない。一つも警報はならず、監視カメラの大半は録画されていない。あるところでは電源のない壁に取り付けられていたというから粗雑極まりない管理体制だ。録画システムは古いヴィデオカセット式で捉えられて犯人の映像は役にたちそうにない。

この呼び物絵画の額は一応ガラス付きであるが、それでも本物画布から数センチに接近して虫眼鏡で覗き込めるのは至福の喜びにちがいない。しかし壁に吊るしただけとは恐れ入りやした。

さて、実行犯グループは明らかにオスロの移民ギャングたち……と多数の見方が正しいとおもう。貧困と暴力の租界住民であって、美術品窃盗の国際シンジケートではあるまい。犯人の一人はノルウェ_語を話したが、だからノルウェー人とは限らない。金に換えるか、借金の返済に充てるつもりで盗んだと思われる。以前、実際にヤク物の支払いに別の美術館からムンクが盗まれたことがあった。おそらくこの絵画を人質に、美術館側から身代金をせしめる魂胆、ごくかんたんに考えていたのだろう。

昨年、スコットランドのドラムランリグ城からレンブラントの【Madonna with the Yarnwinder/I糸車の聖母】、やはりマドンナが画題になっている作品が二人組に盗まれた。
現場にいた女性ガイドをねじ伏せ、待っていた仲間の車で逃走した。其の後杳として犯人像が浮かばない迷宮入りの事件である。手口が類似しているので、スコットランド警察と情報交換をしているそうだ。

24日再開されたムンク美術館は大盛況の入館者、ニュースのおかげで妙な人気が出る世の中を憂うべきかノルべきか、はて。(了)

   叫び(ムンク)     マドンナ(ムンク)    糸車の聖母(ダヴィンチ)



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