安達正興のハード@コラム
Masaoki Adachi/安達正興


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アラウィ首相の綱渡り

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〈 Mon, 09 Aug 2004 〉



日曜日というのにイラクではめまぐるしい動きがあった。次々打ち出す治安政策はやや場当たりてきであるが素早い実行力は感嘆するばかり。アラウィ首相の【綱渡り】を追う。

●恩赦か 動乱つづくシーアの本拠地へ突然姿をあらわしたアラウィは知事や地元有力者と会談、その席で『騒動をおこしているのはサドル支持の民兵ではなく、外国人と前科者のしわざ。武器を渡して市民生活にもどれば逮捕しない、恩赦をあたえる。サドル師は政府に参画するよう』。懐柔策である。まえにも行ったが、24時間以内にとか、実際はそのときどきにのみ有効な措置だった。土曜日調印された恩赦法は、小火器や爆発物を所持したり、指名手配中の過激分子を匿った者に適用される。実際発表後1000人以上が、アラウイのナジャフ訪問中にもすうグループが警察に出頭、武器を放出した。だがサドル側が乗ってこない。『おれたちは前科者じゃない!信ずる宗教のため、祖国のため、民主主義のため占領軍と戦うのだ。馬鹿にするな』 ……逆効果もあった。

停戦を破ったのは米軍が先に仕掛けた。衝突4日目にしてシーア市民の間にはなおそう思う人が多く、過激派に同情的だが、アラウィ訪問はけっこう歓迎された。アラウィ自身がシーアというご贔屓分を差し引いても、治安回復の取り組みをアピールできた……成功といえる。アラウィ首相が帰途につくや、米軍がナジャフ市内に戦車を出動、戦闘再開したのはアラウィが了解済みの予定の作戦。タフな首相である。

● 死刑か
サッダム政権が重宝した死刑はサッダム遁走後民主主義の名においてCPAが廃止した。その死刑を移行政府は再び施行すると発表。砲撃、爆破、拉致の犯人は死刑を覚悟しなければならない。もちろんサッダム裁判にも適用される。国連や、死刑廃止論者の非難があがっているが、米軍は黙っている。民主主義のメンツ上撤回できなかった極刑が戻って満足だろう。恩赦と死刑、アメとムチの治安対策である。

●チャラビ、大スターからお尋ね者へ
イラク戦争に米と協力し、開戦の大義となるWMD情報で米を侵攻へ導いた亡命イラク人、アハメド・チャラビは米軍が推すイラク首相候補ナンバーワン。発足した統治評議会のスターであった。ただイラク人に子供のときから外国住まいのチャラビを好きになれといってもそりゃムリだ。頻繁にテヘランへ出張して、宿敵イランの有力者と会談をもっているのはうさんくさい。そこへ金融業で成功したチャラビの家がCPAのブレマーの命令でイラク警察に強制捜査され、偽造紙幣が見つかったというニュースがあった。今年5月の古い話である。この偽造紙幣が逮捕状の理由になっているが、罪状なんて何でもいいのだ。本当の罪状はイランに 通じるスパイ嫌疑である。チャラビは今もテヘランにいる。

もうひとり、甥であるサッダム特別法廷の検察長官サレム・チャラビ氏が殺人関与の容疑で叔父さんと一緒に逮捕状が出た。本人はロンドンから【とんでもない濡れ衣】とのこメントを出している。同意ですわ。法務大臣の私怨だろう。ふたりのチャラビは逮捕を察して既に外国にいるので逮捕はできない。体の良い国外追放である。アハメド・チャラビについては弁舌に買いかぶりした米が盲目に信頼した結果で、いまさらチャラビを恨むのはお門違いだ。と、わたしは思う。

●イラン外交官拉致される
これは尋常ならざる、イランとイラクの危険な関係に火を投げ込むような事件である。やはりシーアの聖地カルバラでおこった。拉致犯イラク・イスラム軍は先日パキスタン人二人の首を刎ねたグループ。イランがイラクに干渉させないための警告テロである。イランシーアのイラクシーアへの浸透は今にはじまったことではない。アラウイがしばしば言及する外国人とはシーアの土地ならイラン人を指す。(了)



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