安達正興no高見の見物 なんじゃこら!(コラム)

Masaoki Adachi/安達正興


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身辺生活日記(2)

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〈 Fri, 01 Feb 2002 〉

わたしの日々の暮らし、きょうの一日を綴ります。

(前回のつづき)

個展のギャラリーを出て、なにげなく並びの骨董屋さんのウインドウを覗くと、ショットグラスが一つあった。中に入ってじっくり見る。眼鏡を忘れたので値札も見えない。緑硝子に錫の台がついたドイツ製、ガラクタですが安いので一応買う。これはワイングラスや小さなショットグラスを蒐集しているその道では知られたコレクターである神戸のSさんへのおみやげだ。以前この店で求めたワイングラス、100年前のハーデランドを進呈した。おしょう月に会ったとき、業界の人に「これは名品だ」と評価されご満悦だった。それでまたガラクタでころばせようという魂胆なのです。
お相手をしてくれる女主人は、フィヨルド観光にきた日本人ならたいてい立ち寄るスタルハイムホテル先代のお嬢さん、今はおばさんである。故・先代はとてつもない骨董蒐集家で、ホテルのロビーにも一部陳列されているが、あまり多いのでホテルのそばに野外民俗博物館を作ってしまった。私がはじめてノルウェーに来た31年前、外国人学生の遠足ではじめてここへ寄った。先代がまだいらして「日本のプリンスにお泊りいただいた。背の高い立派な青年であった」とおっしゃる。「1930年頃だったかな」。かなりふるい話しである。あとで調べてみると高松の宮様がオックスフォード留学中、夏休みを利用して来られたそうだ。ヨーロッパ諸侯はもちろん、天皇皇后をはじめ現皇室のかたがた多くがこの絶景の断崖に建つホテルで休憩されている。
話しがそれましたが、女主人はこの先代から骨董の目利きを教わったようです。ダンナ選びにも目がきいたのか、地震科学者Rさんと結婚。私は長くべルゲン大学で地質地図を作る仕事をしていた関係で旧知の仲だ。そのRさんが入ってきて、
(R)「おやマサオキ大学辞めてどうしてるんだ」
(マ)「なにをいうか、オマエも辞めてヒドロだろう。会社休みか」
(R)「いや退職した。60で充分な年金もらえるシステムにしておいたからな」
(マ)「いいな〜、うちは自転車家業で67まで逃げられない。店手伝ってるの」
(R)「バカ言え、せっかく辞めたのにNo No。家事を手伝ってるのだ」
てなお喋りをしておりました。ヒドロとはノルウェー最大の企業グループで一部門に石油産業があり、Rさんはその中の石油資源開発会社で探査の仕事をしている。こういう民間の研究機関と大学の人材交流がなにげなくおこなわれていて、Rさんも何度か教授とヒドロの主任研究員を往復している。エライのは給料が愕然と安い大学にもどるところ。そして退職できる状況になれば、その歳になるまえに去るフッキレのよさ。いい上役だったろうな。
家内は2時に終わるのだが、まだ1時。それではバスで帰ろうとバス停に立つ。するとKさんが「ハイ、アダチサン!」これから授業、日本語の講義にいくところでした。ひとしきり最近の日本語課学生のようす、学科の様子を聞く。3月に在京ノルウェー大使館で働いているH君が一時帰国するので、日本の経済事情を彼に、日本とビジネス経験豊富な当地の大物・Iさんにも頼んで講演会を計画中とのこと。
Kさんはもうあれから10年になるか、東京に留学中、ケーキ屋さんでアルバイトをした経験がある。彼女がときどき余興にやってくれる「もうしわけございません。もううりきれでございます」とにこやかにおじぎする様は絶品である。

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あだち


Pnorama Box制作委員会

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