我がニッポン日本・高見の見物(コラム)

Masaoki Adachi/安達正興


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アストリ・リンドグレン 1907〜2002
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〈 Mon, 28 Jan 2002 〉

28日スウェーデンの児童文学者、「長くつ下のピッピ」で知られるAstrid Lindgren 女史が亡くなった。94才。
1944年、8才になる娘が病床にあったとき、せがまれて寝物語を即席でつくって話してあげたストーリーが童話第一作である。以後130のストーリーを書き上げ世界中に翻訳された。3世代にわたって女史の「ピッピ」や「エーミル」、「バッケビーグレンダの子供たち」が読まれてきたことになる。なにしろ出版部数は世界で10億をこえるといわれ、うちの子供がまだ小さいころ、毎日々々TVでみていた。北欧で子供たちの最高の時間がこれでした。ケタケタ笑って画面にゆびさしたり、何がそんなにおかしいのか?のらくろや少年ケニア、義経や新撰組、小松崎茂の戦闘画で育った私にはわからない。リンドグレンはトーヴェ・ヤンソンともアンデルセンとも違う。
リンドグレンは片田舎の生まれ、おはなしは彼女の育ったおおらかな自然のなかが舞台である。子供たちのイタズラはかなり度をこした自由奔放さがあり、大人も本気で厳しく叱る。日常生活で子供たちの夢をえがく楽しく愉快なストーリーがハラハラドキドキ展開する。が、家族。親戚、村の生活には互いに助け合う人々の結び付きが底にあって、暖かい心、弱いものを庇う優しさ、病気や死の哀しさが滲み出る。道徳を語らず、しかも人の規範を理解する人間愛があるのだ。このあたり、なみの冒険談にはない普遍性を持ち、永遠の文学書になったとおもわれる。特に 強きを挫き弱きを助ける 元気ジルシで不思議な怪力をもつ「ピッピ」や、何でも知りたい・試したい、正義感のある「エーミル」などは少年少女の目覚める自立心を促したことであろう。
ペアーソン首相が女史を偲んで語った、「小さいころはエーミルが好きだった。大人になってみるとあのパパの気持がよくわかる」。
どうして大人もリンドグレンを読むのか、なるほどと思いました。
130もある著作には、北欧の暗くシリアスな神話に根ざした物語や、善と悪の戦いをテーマにした本もあるそうです。リンドグレンさんは成功によっていささかも己をインフレートしなかった人、外向的ですが、公的の場に出たがらなかった。そういえば長谷川マチコさんに通じるか、ちょっとせっかちな気さくなオバさんでした。1年前にはノーベル文学賞にファンが運動していましたが、本人は関心を示さなかった。そう、どうでもいいでしょう、読者の数がなにより勝る賞です。

Pnorama Box制作委員会

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