我がニッポン日本・高見の見物(コラム)

Masaoki Adachi/安達正興


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朋友を失ったアラファト
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〈Sun, 27 Jan 2002 〉

「アラファトはテロリスト、中東紛争の火種はパレスチナ側にある。」
この一言で、わたしは友だちを何人か失うだろう。パレスチナかわいそう・反イスラエルが日本人のコンセンサスのようだ。
現在のイスラエルであるサマリア、ユデア、ガリレア地方は、聖書時代を持ちださなくとも中東が英仏の保護領土(プロテクトラート)の頃からユダヤ人が耕し生計を営んでいた土地だった。アラビア人が多数だった地方はヨルダン、シリア、レバノンとして第二次大戦中に独立している。
イスラエルがソ連を含め、西欧の後押しで、建国されたとき、イスラエルにパレスチナ人と呼ばれる特定の人種はいなかった。父祖の地に住みたいイスラム教徒アラビア人が、80パーセント以上を占めるユダヤ人と共存していたし、イスラエルが国内のイスラム教徒をを迫害したことはない。[もとからパレスチナ国家があって、その国を横取りした]などというのは大ウソである。
アラファトは1929年エジプト生まれ。それなのに本人はエルサレムで生まれたと主張している。事実は、イスラエル国内の無人砂漠地帯に移住した多くのアラブ人の一人である。パレスチナ人と自称 し、先住のアラビア人住民すべてを含めていつのまにか「パレスチナ人」なる言葉が定着した。アラファトは目的のためには手段を選ばない、大ボラ吹き。ま、アラブ人には珍しくないけれど。
このパレスチナ人の間から武装グループ「ファタ」が組織されPLOの母体となった。アラファトは内向きにパレスチナ人の独立と権利を訴え、おべんちゃらとワイロで念願のリーダー・PLO議長になった。現在は、パレスチナ自治政府議長である。一方でヨルダンの故フセイン国王に真似たのか、金髪美人を夫人にしている。このフセイン国王は、67年の7日戦争のあとイスラエルに占領されたヨルダン側西岸の放棄を公的に表明しているのをご存じですか。
PLOはアラファトの指揮下、ゲリラ闘争を本格化し、航空機ハイジャック、イスラエル攻撃、ヨルダンへも上記の理由で攻撃。暴力がエスカレートし、1980年までは国際的にテロリストの烙印を押されていた。
90年の湾岸戦争ではサッダム・フセインを支持して、金ヅルの支援国サウジやエジプト、イランの同情を失ないお金も貰えなくなった。文なしになったこの時がアラファト最初のピンチ。ところが突然、イスラエルに対して和平攻勢にイニシアティブをとり、苦肉の策が大成功、話のわかる穏健派として国際世論を味方につけてしまった。リップサービスはアラファトの真骨頂。専用機で世界中を飛び回る人気者になり、誰もテロリストと言わなくなった。
平和を模索するアラファトのウラには「中東平和が壊れれば、何がおこるかわからない。世界に飛び火してはあなたの国も困ります」というなにげないオドシが一対になっており、支援金を集めて回った。総額いったいいくらになるか、日本が戦後復興のためアメリカから受けた金額の時価にして何倍ぐらいだろう。このお金が空港や自前の専用機、自治警察のほか大部分がはたしてどこへ消えたのか、パレスチナ人の生活はいっこうによくならない。産業の育成にはまったく手をつけていない。
10年前、オスロ合意を果たし、肝心のエルサレム帰属問題を棚上げしたままではあるが、パレスチナ国家承認に向けて大きく平和共存に動きだしたかにみえた。10年みかけの停戦を維持できたのはスゴイことではあるが、達成は幻想にすぎない。和平イニシャティブはアラファトとその取り巻きが民衆から遊離したところで結んだ合意の繰り返しであり、合意の第一条件・相互に武力攻撃を中止する条項は常にパレスチナ側の挑発で報復合戦に発展した。
アラファトの地盤はファタであり、ハマスや過激派の支持がなければ成立しない。パレスチナのテロを押さえることはアラファト自身の足元を取り崩すことである。だからこれまではどうでもよい末端の過激派メンバーを捕まえて、それもすぐに釈放するのだが、ゴマカしてきた。国民にイスラエル憎悪をはたき込む教育を少しも改善しなかった。自爆テロはなくならず、止める術もない。和平交渉の約束を履行しないまま、次の和平交渉を重ねても意味がない。期待は失望にかわった。加えて、イランからの武器密輸入が発覚、激怒したブッシュさんが外交関係見直しを始めた。穏健派実力者アラファトは幻想なのだ。このピンチを乗り越えるカードはもはやあるまい。
シャロンの意志はアラファトを標的にする一歩手前まで来ている。ヘリコプターからミサイル攻撃、ハマス幹部の家を急襲。F-16戦闘機でガザと西岸のパレスチナ政府建造物を破壊。アラファトは戦車に囲まれて、身動きとれない状態だ。四面楚歌の中で「パレスチナが他国軍に占領されているのに国際社会はなぜ介入しないのか」と訴える。ソッポを向かれたた理由は永遠に理解できないだろう。2月7日にワシントンで行われるシャロンとブッシュの会談でなにがでるか、アラファト議長は最後通告をうけるのではないだろうか。
イスラエルが歴然と差のある軍事力で倍の報復するのを自重すべきと思う。アラファトのやりかたはもちろん容認できない。もうどちらにも同情できないまま倦み疲れてしまった。

---------- 了 ----------


Pnorama Box制作委員会

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