我がニッポン日本・高見の見物(コラム)

Masaoki Adachi/安達正興


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「名誉殺人」
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〈Thu, 24 Jan 2002 〉

今日はひさしぶりに快晴、遠くまでくっきりよく見える。風も止んだ。夜も更けて家々のあかりが、皓々(こうこう)と輝いている。鏡のような眼下のフィヨルドを「沿岸急行船クルーズ」1万数千トン級が明々と海面を照らしてすべるように進んででゆく。その夜景をながら、昨日から当地もちきりの話題「名誉殺人」について、まず事件のあらましです。
スエーデンに住むクルド人の女性が父親に射殺された。26才になる娘が親の意に反してスウェーデン人男生と結婚したため、親から勘当され、殺されるかもしれない。居所を隠しながら逃亡生活をしていました。クルド人とはイラクとトルコにまたがった地帯に住むマイノリティー。フセインの迫害をうけ国連が政治亡命者として認めている。
守ってくれる主人が交通事故で亡くなったあと、執拗に父親に追跡され、逃げて身を隠すこのムスリム女性の様子がテレビドキュメントになった。それで、スウェーデンでは勇敢な女性として知られた存在でした。昨日彼女が妹のアパートを訪ねたとき、56才の父親がピストルを持って侵入、娘の顔面を3発打ち抜いた。父親はすぐ逮捕され翌日には娘殺害を認めました。
この事件はムスリム社会における「家長のメンツ・名誉」をまもるため、破戒した家族を殺す封建的伝統が今日でも実行されることをはっきり示しました。以前イランだったか、婚前交渉をもった娘をやはり家族が「名誉殺人」したことがあり、それをドキュメントした番組をみたことがあります。実行犯の兄と命令した父親が逮捕され、3日間取調べのため拘留されただけで、釈放されました。ムスリム国家でも殺人は犯罪ですから逮捕しますが、「名誉殺人」ならお咎めを受けないらしい。
スウェーデンの国内にある移民ムスリム社会で起こったこのような異質の犯罪にたいして、予防的な対策をどうすればよいか、この事件をきっかけに議論が活発になりました。議論の一部を紹介すると:
○ いままで宗教の自由、エスニック文化と慣習を尊重するあまり、イスラム、ヒンドゥー、仏教徒移民に寛大しすぎなかったか。文化・宗教が異なっても、居住国であるスウェーデンの法律を総ての住民に厳格に適用すべきである。
○ いや、宗教の問題ではなく男尊女卑を引きずる古いシキタリが問題だ。なぜなら500年前のキリスト教国家にも「名誉殺人」はあった。そういえば日本でも江戸時代まで、家名を汚した子弟は頭をまるめて坊主や尼になったし、場合によってはむりやり切腹させられた。
○ 現在、親が決めた結婚相手を嫌って、家出し、支援団体の保護下にいるムスリム女性がノルウェーだけでも20数人いる。あるものは名前を変えて、勿論住所も電話も公にせず暮らしている。因習的な親と北欧生まれの子の世代ギャップは、子供たちが結婚適齢期にきている昨今ますます顕在化するだろう。
○ ムスリム男性のホンネが聞かれる盗み取りのような映像があり、それによると「ホメられることではないが、我々のやりかただ。地元の人には迷惑かけない。父親だって娘を殺したくはないが、家長のふるまいを要求する社会のプレッシャーは感じていただろう。何年も悩み抜いて追い詰められていたのではないか。」
○ 大多数のイスラム系住民の意見は、今回の例は極端であって、これをもって我々を判断するのは間違いだ。
○ 警察はこれを機にムスリムや難民グループに対する人種差別、暴力が広がることを恐れている。犯罪に対して、文化や伝統を考慮することはない。また執拗に暴力、脅しを続ける親からは滞在許可を取り下げることを考えている。
スウェーデンの人々は、助けを求めてシグナルを出していた女性を、結局死なせてしまったのは誰か。自分たちにその責任を感じているかのように哀悼の中にある。しめやかな雰囲気であり、今回はどうも批評する気分になれなくて・・辛口コラム落第でした。

Pnorama Box制作委員会

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